「つくし、来いよ。懐かしいもん、見せてやる。」
そう言ったのは、総二郎。
普通の女なら例外なく落とせるような、魅惑的な笑顔を浮かべてつくしに手を差し出した。
つくしは顔を真っ赤に染めながらも、キョトンとして総二郎の手をじっと見つめている。
「大丈夫。変なところに連れて行くんじゃねぇから。」
そう言って、つくしの手を取る総二郎。
突然の総二郎の行動に、つくしは驚いて何も言えない。
「おいっ、総二郎!つくしをどこに連れて行くつもりだよ?」
今まで黙って総二郎とつくしを見ていたあきらが、総二郎に声を掛ける。
あきらの隣で、同じ様に黙って様子を見ていた類も、訝しげな顔をして総二郎を見つめる。
「心配すんなよ、お前等。俺んちに連れてくだけだ。
昔よく遊んだ場所に行けば、つくしだって、何か思い出すかも知んねぇだろ?」
総二郎はそう言って、つくしの手を取り歩き出した。
片手はつくしの手を引き、もう片方の手で携帯を取り出し、
車を呼び寄せている総二郎の表情は何故かニヤついていた。
「ったく、あいつは…」
遠ざかる2人の後姿を見ながら、あきらがぼやく。
「ねぇ、あきら。総二郎とつくしを2人きりにしても良いの?」
自分より先につくしを連れ出したのが気に入らないのか、ムッとした表情を浮かべて類が言う。
「良い訳ねぇだろ?総二郎だぞ?」
あきらが口を開く前に、あきらと類の後ろから聞きなれた低い声が降って来た。
「司…。だよね、じゃぁ、俺達も行かなきゃ。」
後ろの司を振り返り、そう言った類の顔はニコッと上機嫌。
そんな類を、あきらは軽く溜息を吐き、苦笑しながら見ていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。あたしをどこに連れて行く気?って言うか、あなた誰?あたしの事、知ってるの?」
総二郎に手を引かれたまま、引き摺られるように後を付いていくつくしが、やっと我に返ったのか、総二郎に訊ねる。
「今から行くのは、俺の家。それから、俺の名前は西門 総二郎。
茶道 西門流の次期家元で、つくしとは小さい頃からの幼馴染。まぁ、つくしは覚えてねぇみたいだけどさ。」
つくしを振り返り、そう言って苦笑する総二郎。
「あっ…。ごめんなさい、あなたの事、あんまり覚えてなくて…」
そう言って、申し訳なさそうな顔をするつくしに、総二郎は微笑みかける。
「そんな顔すんなよ。つくしが忘れてても、俺達がつくしの事を覚えてる。
今は忘れたままでも、これから少しずつ思い出していってくれれば、それでチャラ。」
「うん…ありがと。ねぇ、さっき俺達って言ったけど、もしかしてさっきの3人もあたしの幼馴染なの?」
自信なさ気にそう聞くつくしの表情は、困惑気味。
当然と言えば当然の反応である。
世の男達の中でも、群を抜いて美形な4人の男達が、突然幼馴染≠セと言って目の前に現れたのだから。
その内1人は昨日、騙し討ちのようにお見合いさせられ、何故か婚約者として紹介されている始末。
日本に戻って来てから、突然崩れ始めた今までの平穏な生活。
つくしは、心の中で盛大に溜息を吐いた。
「あぁ、あいつ等も俺と同じ様に、つくしの幼馴染だぜ。
昨日も会ったと思うけど、あの天パで眼つきの悪いのが道明寺 司。俺達F4リーダー。
で、女みたいに綺麗な奴いただろ?茶色の髪の目の綺麗な奴。あいつが花沢 類。
それと、長髪のウェーブ掛かった髪の奴が美作 あきら。俺達4人共、つくしとは仲良かったんだぜ?」
道明寺 司…
花沢 類…
美作 あきら…
そして、西門 総二郎…
つくしは総二郎が教えてくれたそれぞれの名前を反芻してみる。
皆、どこかで聞いた事があるようでない名前。
4人の名前をブツブツ言いながらつくしが考え込んでいると、いつの間にか校門に到着していたようで、
西門家の運転手が車の扉を開けて待っていた。
「どうぞ、お姫様。」
総二郎がそう言って車に乗る様、エスコートする。
つくしは、条件反射の様に総二郎の手を取り、車に乗り込んだ。
それに続いて総二郎も乗り込み、運転手が扉を閉めようとしたその時、
「つくしを1人占めしようなんて、そうはいかないよ。」
「この俺様を差し置いて2人きりになろうとするなんて、上等じゃねぇか、総二郎。」
「って事で、俺達も一緒に行かせてもらうぜ。総二郎君。」
と、大きな男が3人続いて乗り込んで来た。
総二郎はチッと舌打ちし、突然の乗客に車の外でオロオロしている運転手に合図して扉を閉めさせた。
「何でてめぇ等まで乗ってくんだよ?!」
車が走り出すと、総二郎が不機嫌も露にF3に怒鳴る。
「何でって…なぁ。」と、あきらが類と司へ視線を送る。
「つくしは俺の婚約者だからな。」と、司。
「そんなの、総二郎と2人きりにしたら、つくしが穢れるからに決まってんじゃん。」と、類。
それぞれの言い分に総二郎は何も言えずに黙り込む。
そんな4人を、つくしが自分の中の思い出とリンクさせていた。
『おいっ、総二郎!お前、つくしとどこ行くんだよ?!』
『どこだって良いだろ?』
『司…、行くとこ言ったらかくれんぼにならないじゃん。』
『類、俺達も行こうぜ。あっ、司は鬼だから、ここにいろよ。』
『『『つくし、ほら、行こう!』』』
そうやって差し出された手は、誰の手だったか…
思い出そうとしている間に、つくしは夢の世界へと旅立って行った。
「ホント、変わんねぇな、こいつ…」
自分の肩に頭を預けて眠るつくしを、他の女には見せた事のないような優しげな目で見つめる総二郎。
「車に乗るとすぐに寝る癖か?」
総二郎に負けず劣らず優しい目でつくしを見つめながら、穏やかに話すあきら。
「どんなに時間が流れてても、やっぱりつくしはつくしだね。この顔見ると、安心するよ。」
普段無表情の類までが、つくしの顔を見ながら穏やかに微笑む。
「11年…」
窓の外に目を向けていた司が、つくしに視線を移す。
「あれから、もう11年も経ってんだぜ?信じらんねぇよ…。
あの時の事、俺まだ、昨日の事みたいに思い出せるのに、こいつは全然覚えてねぇんだぜ?
何か、すっげぇヤな感じ。」
言葉は悪いが、そう話す司の瞳は他の3人同様、優しかった。
自分を中心に、そんな会話が交わされている事など全く知りもしないつくしは、
幸せそうな顔のまま、西門邸に着くまで眠り続けた。
「そう言えばつくしって、総二郎の家が苦手だったよね。」
暫く何も言わずにつくしの寝顔を見つめていた4人。
そんな中、類が唐突に言い出した。
「そう言やぁ、そうだったな。」
それに続くあきら。
「おぉ、何か自分ちと全然違うからとか言ってたんじゃなかったか?」
と、司。
「自分ちが洋風だから、和風の俺んちは家みたいな感じがしないとかって言ってたっけな。
それに、俺んちが茶道の家元だから、嫌でも稽古思い出すっつって、よく脱走しようとしてたっけ。」
そう言って当時を思い出しながら笑う総二郎。
「そうそう。遊びに来ただけだって言っても全然聞かないから、総二郎の部屋だけ洋室にしたんだよね。」
総二郎に釣られて類も笑い出す。
「そう言う類も同じ理由だろ?自分の部屋だけ洋室なのは…」
あきらが呆れた様に呟く。それに、類が笑いながら「まぁね。」と返した。
「あきらの家だけだったか、つくしが素直に入ったのは…」
司はそう言って苦笑した。
そう、つくしの家は完全な洋館で、その自分の家が本当の家だと思い込み、
純和風の総二郎の家と類の家を嫌がり、
同じ洋館でも司の家にはつくしの家にはない彫像が置かれている為、怖がった。
あきらの家は、少女趣味の母親の影響で女の子であるつくしには馴染みやすく、
沢山の花が植えられた美作邸には素直に入って行ったのだ。
「で、その苦手な総二郎の家に連れて行って、何をする気だったの?」
鋭い目つきで総二郎を見つめる類。
総二郎は、そんな類にニヤリと笑いかけ、
「怖い思い出って、忘れてるようで覚えてるもんだろ?
ウチの蔵に連れてけば、何か思い出すんじゃねぇかと思ってよ。」
と言った。
そんな総二郎の言葉に、驚いた顔をした類と、乾いた笑いを浮かべる司。
あきらは、苦笑して額に手を当てていた。
西門邸に着き、車が停車してもつくしが起きる気配はない。
総二郎、あきら、類がつくしを揺り動かしても目を覚まそうとしないつくしに、短気な司が頭突きをかます。
ゴンッ
「いったぁ〜い…。何?何があったの?ん?って、ここどこよ?」
司に頭突きをされた額を擦りながら、そこが見慣れた自分の部屋ではないと気付くと、
キョロキョロと辺りを見回し確認した。
まだ覚醒しきっていない頭でゆっくりと自分のいる状況を確認するつくし。
学校から総二郎の家の車に乗せられたところから、つくしの記憶は途切れていた。
「えっと、ここは…」
「俺んち。ほら、降りようぜ。」
寝起きでボケッとしているつくしに、手を差し出し車から降ろす総二郎。
つくしが降りた先で見た物は、瓦屋根の立派な門。
類とあきらと司は、既に開け放たれた門の先にいる。
総二郎に続いて門を潜り、立派な日本庭園に足を踏み入れたつくしが感じたのは、何とも言えないゾクゾクした間隔。
それに比例して、つくしの表情が少しずつ強張っていく。
総二郎は、そんなつくしの表情を見ながら、にっこりと笑った。
Devil総二郎君です!
あれ?こんな展開になる予定じゃなかったんですが…;
原作は総二郎の幼馴染としてサラちゃんが登場してますが、このお話ではサラちゃんの存在はなしと言う事で…。
サラちゃんファン&総優ファンの皆様、すみません;;;
じゃぁ、楪っち、後宜しくね♪
華蓮