Act.3 Written by:

つくしが滋に言われたお見合いについて自室で考え込んでいる頃、道明寺低では…

 

それぞれが思い思いに寛いでいる道明寺低のダイニング。

3人掛けのソファーを1人で陣取り、クッションを抱え眠っていた様に見えた類が唐突に話し出した。

 



「あのさ、俺、今日意外な人物見たんだけど…」



 

類の言葉にあきらと総二郎は今まで話していた話を止めて類に向き直る。

司は大して興味もなさそうに、ワインの入ったグラスを傾けた。

 



「誰だよ、意外な人物って…」と、総二郎。


「俺達の知り合いなんて、大していねぇだろ?」と、あきら。



 

類は横になっていたソファーから身体をゆっくりと起こして、考える様な仕草をし、F3の顔を見渡した。

 



「…つくし。」



 

類が一言そう呟いた途端、あきらと総二郎の目が驚きに見開かれ、

司に至っては持っていたワイングラスを落としてしまった。

傍にいた使用人が、慌てて司の傍に駆け寄りグラスを片付け、

司に「お怪我は御座いませんか?!」と声を掛けているにも関わらず、

当の本人は類の言葉に固まったまま動こうとしない。

 



「多分だけどね。でも、間違いないと思うよ、あれは。」



 

類はそう言うと、昼間見かけたつくしの様子を思い出したのか、1人笑い出した。

類の一言で呪縛が解けた様に正気を取り戻すF2。

 



「マジかよ…だって、あいつN.Yに居るはずだろ?」



 

まだ驚きを隠せない様な表情であきらが呟く。

 



「ってか、こんな中途半端な時期に、何でまた戻って来たんだ?」



 

テーブルに置かれたグラスを手にしながら、総二郎もあきら同様呟いた。

 



「さぁね。そこまでは分かんないけど。でも、相変わらずだったよ、あいつ。」



 

そう言って類はまた笑う。

そこでやっと正気に戻ったのか、司が大きく溜息を吐いて、

使用人が新たに用意したグラスにワインを注ぎながら言った。

 



「…あいつ、元気だったか?」



 

司のその言葉に類は軽く笑いながら、

 



「うん、元気だったみたいだよ。非常階段で俺が寝てたら、大きな声で起こされたし…」



 

と言う。それに反応したのは、あきら。

 



「つくしと話したのか?」



 



「ううん、見かけただけだよ。何か大声で叫ぶだけ叫んで走って行っちゃったから、声掛ける暇もなかった。」



 



「本当、相変わらずだな、あいつ…」



 

そう言って総二郎が苦笑する。

「でも、元気そうで良かったよ。」そうポツリと呟いた時の総二郎の表情は優しく、穏やかに微笑んでいた。

 



「ねぇ、司…」



 

一言発したきり、何も言わない司に類が呼びかける。

 



「あ?何だよ?」



 

普通にしているつもりなのだろうが、司が発した声は少し震えていて動揺している事を隠しきれていない。

 



「つくし、帰って来たよ?」

 

「…だから、何だよ?」

 

「司は、どうするの?」



 

類のビー玉の様な澄んだ瞳が、じっと司の目を見つめている。

司も類の瞳から目を逸らさずに見つめ返す。

2人の間に存在する異様な空気を、F4のまとめ役で心配性のあきらが壊した。

 



「どっ、どうするって、なぁ、司。お前には彼女がいるもんな。」



 

あきらのその言葉に慌てて総二郎が続いた。

 



「そっ、そうだぜ、類。滋って女が、司にはいるじゃねぇか。何言ってんだよ、お前…」



 



「大河原は、司の婚約者候補の1人ってだけでしょ?

積極的に大河原家の方が司のかぁちゃんに縁談持ち込んできてるみたいだけど…。司、大河原と付き合ってんの?」



 

焦っているあきらと総二郎とは対照的に、どこまでものんびりとした類の声が響く。

3人が好き勝手に話している事に苛立ったのか、司は手にしていたワイングラスを乱暴にテーブルに置くと、

 



「俺は好きでもねぇ女と付き合ったりしねぇよ!婚約者だって、ババァが勝手に言ってる事だ。俺の意志じゃねぇ!」



 

と大声で言い放つ。

 



「やっぱりね。で、どうするの?つくしの事…」



 

司の意志がはっきりしたところで、類は最初の質問に戻した。

 



「どうするもこうするも…。まだ会ってもいねぇのに、何もねぇだろ?」



 

類の質問に、ポツリと呟く司。

類は司の言葉に満足した様ににっこり微笑み、「確かにね。」と笑った。

 


 



「司はあぁ言ってるけど、滋の方は司と付き合ってるつもりだよな?」



 

類と司には聞こえない様に、あきらが総二郎に耳打ちする。

 



「だと思うぜ。何たってほぼ毎日の様に学園にまで押しかけて来る位だからな。」

 

「だよな…。司んちは、石油関係だけ持ってねぇからなぁ…。

その点、大河原との縁談は、道明寺に莫大な利益をもたらすし…。

今んとこ、滋が一番固そうだよな、司の婚約者って。」



 

はぁ〜…と溜息を吐きながら、あきらはソファーの背凭れに背中を預けた。

その様子を横目で見ながら総二郎が、

 



「まぁ、何はともあれ、何か面白そうな事になって来たんじゃね?」



 

と、にやりと笑った。

 








 

その日、つくしは滋に言われたお見合いと言う言葉が頭から離れず、時差ボケも重なり朝方まで眠る事が出来ずに、

次の日、英徳に編入してまだ
2日目だと言うにも関わらず、目を覚ました時には時計の短針が10を差していた。

キングベッドの横、サイドテーブルに置いてある目覚まし時計を、まだ完全に回っていない頭で確認する事、数十秒。

 



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 

と、邸中につくしの叫び声が響き渡った。

 



「つくし?!どうしたの?!」

 

「お嬢様!どうなさったんですか?!」



 

そのつくしの声を聞きつけて、慌てて使用人やつくし付きのSP

それに何故かアメリカにいるはずのつくしの母親・千恵子までが、つくしの部屋へと集まって来た。

 



「がっ、がが学校!もう、完全に遅刻じゃないっ!どうして、皆、起こしてくれなかったのよ?!」



 

完全にテンパっているつくしは慌ててベッドから飛び降り、シースルーのナイトドレスを脱ぎ捨てようとする。

それに気付いた使用人達は慌ててつくしに駆け寄り着替えを手伝おうとするが、つくしは、

 



「着替えは自分で出来るから!学校に向う準備をして下さい!」



 

と拒否。

つくしに学校へ行く準備をと言われた使用人達は、

準備をする為につくしの部屋を出て行こうとするが、千恵子によって止められた。

使用人達が準備に向ったかどうかも確認せずに、

中途半端に脱げたドレスをそのままに、つくしがクローゼットに飛び込んで行く途中、

つくしの母親の言葉によってぴたりと動きを止めた。

 



「つくし、ちょっと落ち着いて。それに何?その格好は…。周りを見なさい。

SPもいる中で着替えをするつもり?年頃の娘がはしたない…」

 

「マっ、ママ!?何で?!何でママがココにいるの?

ってか、いつ日本に帰って来たのよ?昨日は何も言ってなかったじゃない…」



 

千恵子に指摘され自分の姿を確認したつくしはギョッとし、

瞬時に顔を赤くしたと同時に慌てて身だしなみを簡単に整え、恥ずかしさを隠す為か早口で千恵子に質問する。

つくしの質問に千恵子はにっこり笑い、部屋に居たままの使用人達とSPを下がらせ、つくしと向き合った。

 



「つくしを驚かせようと思って内緒にしてたの。それと、今日は学校お休みよ。

ママ、もう学園に電話しちゃったから。今日は、ママに1日付き合って頂戴。さぁ、そうと決まれば…」



 

つくしが呆気に取られて何も言えない事を良い事に、千恵子はどんどん話を進めていく。

 



「ちょ、ちょっと待ってよ、ママ…。学校休みってどう言う事?

あたし、何も聞いてない!それに、あたしがそう言う事が嫌いなの、ママだって知ってるでしょ?!」



 

そう、つくしはとても真面目で、体調不良や余程の理由で無い限り、学校を休んだりはしたくないのだ。

幾らつくしがN.Yで飛び級し、既に大学へ入学していたとしても、日本ではまだつくしは高校生。

ならば、高校生らしい毎日を送りたかったのに、編入2日目にして寝坊した挙句、

母親が帰国したからと学校を休む羽目になるとは…。

 



「知ってるわよ。まぁ、ママに言わせれば、今更高校の勉強をする必要もないと思うんだけど…。

でもね、今日はどうしてもママに付き合ってもらわなくちゃいけない大事な日なのよ!」



 

つくしに向って、そう力説する千恵子。

つくしは、そんな千恵子に嫌な予感を覚え、聞き返す。

 



「きょ、今日はどんな大事な日なの?わざわざ、日本に帰って来る位なんだから、相当大切な日なんでしょ?」



 

そう言うつくしの笑顔は、明らかに引き攣っている。

と言うのも、つくしには千恵子の「大事」と言う言葉の基準が分からないからだ。

例えば今日が、家族の誕生日だったり、子供達の卒業式や入学式の日だと言うなら、つくしにも納得がいく。

だが、千恵子の「大事な日」にはそう言った行事だけじゃなく、

例えば「○○のカフェでケーキを食べる日」でも、「大事な日」になってしまうのだ。

今回千恵子が言う「大事」とは、どの程度のものなのか…

にっこり笑ってつくしを見つめる千恵子を見ながら、つくしの顔はどんどん引き攣っていく。

 



「今日はね…」



 

千恵子が話し始めるとつくしは思わず唾を飲み込み、繰り返す。

 



「今日は…?」

 

「ママと…」

 

「ママと…?」

 

「メープルに…」

 

「めっ、メープル?!」



 

千恵子から発せられた「メープル」と言う言葉に、つくしは思いっきり反応する。

まさかそんな反応を返されるとは思っていなかった千恵子は、思わず目を見開き驚きの表情でつくしを見た。

 



「ママ…メープルって、あの道明寺財閥のメープル…だよね…?」

 

「そうだけど…。メープル・ホテルがどうかしたの?」



 

やはりメープルと言う言葉、いや、ホテルにと言うべきか…

その言葉に過剰に反応する娘に対し、訝しげな表情をする母。

今、つくしの頭の中では昨日滋に言われ、朝方までリフレインしていた言葉が再び回り始めていた。

 



『いい?つくし…。ホテルかなんかに連れて行かれて、お見合いだよ?!』



 

昨日から考えていたつくしの頭に出来た公式は、ホテル=お見合いと言うものだった。

そこに千恵子から「ママとメープルに…」と言う言葉が重なってしまったのだから、過剰反応してしまうのも無理はない。

 



「マッ、ママ…、メープルに何しに行くの?あたし、ちょっと時差ボケ酷くってさ…。

今日はこのままゆっくり休もうかな…なんて…ははっ」



 


(どうにかして、お見合いを避けなければ!17歳のうちから、人生決められるなんて冗談じゃないっ!)


 

内心、つくしはそんな事を思っていたが、

自分の目の前で悲しそうな目をして自分を見つめる母親にそんな事を言える筈がない。

 



「そうなの?折角、つくしと美味しいお昼を食べようと思って、メープルのフレンチレストランに予約したのに…」



 

そう言って、悲しそうな顔をする千恵子。

 



「メープルのフレンチでお昼?!」



 

今の今まで、お見合いだとばかり思っていたつくしは、千恵子の一言に思い切り驚いてしまった。

 



「そうよ。そこのシェフが最近変わったらしくて、美味しくなったって評判なのよ。

そこに愛娘とお食事しに行くなんて、とても大事な日でしょ?」



 

そう言って千恵子がにっこり笑ったかと思うと、今度は悲しそうに、

 



「でも、つくしがしんどいなら、無理させる訳にはいかないわよね…。

予約はキャンセルするから、つくしはそのまま休みなさい。」



 

そう言ったかと思ったら、そそくさと部屋から立ち去ろうとする。

 



「マッ、ママ!待って。あたし、大丈夫。もう元気だから、一緒にフレンチ食べに行こう。

ね?そうと決まれば準備しなきゃ。どんな服で行こうかな?ねぇ、ママ。ママはどれが良いと思う?」



 

悲しそうに自分の部屋から出て行こうとする母親を見ていられず、つくしは慌てて千恵子を呼び止める。

この時、つくしの中の「お人好し精神」が目覚めてしまったのだ。

 



「本当?!ママ、嬉しいわ!でも、体調は大丈夫なの?無理してない?」



 

一瞬嬉しそうに言葉を返した千恵子は、やはりつくしの体調が気になるのか、心配そうに問いかける。

 



「大丈夫、無理なんてしてないから。それより、服!ママが選んで!」



 

千恵子の心配を吹き飛ばす様に、元気よくにっこりと微笑みながらそう言うつくし。

つくしの言葉に要約千恵子も安心し、レストランへ着て行く為の服を選び始めた。

この時、つくしには見えない様に千恵子がニヤリとしたり顔で微笑んでいた事など、つくしは知らない。

 



 

それから1時間半後。

つくしは千恵子の選んだターコイズブルーのマーメイドドレスに身を包み、

漆黒の長い髪はカールしてアップに纏め、綺麗にメイクを施され人形の様な姿で、牧野家の車に乗っていた。

つくしの隣に座る母・千恵子は、何故か紋付の着物姿である。

昼食に行くだけにしては、あまりに仰々しい姿の母に、つくしは疑問を抱く。

 



「ねぇ、ママ…。どうして、ママはお昼を食べに行くだけなのに、着物なんて着てるの?」



 

つくしの疑問に千恵子は臆する事無く、にっこりと笑って言った。

 



「着物なんてここ数年着てなかったから、久々に着たくなっちゃったのよ。

やっぱり、着物って良いわね、背筋がピンと伸びてシャキッとするわ。ママが若い頃はね…」



 

そう言って千恵子はウフフと笑う。

千恵子の答えに、つくしは納得のいかない思いを抱きつつも、

機嫌の良く自分に浸っている母親にこれ以上何を聞いても無駄だと、つくしは諦め窓の外の景色に視線を移した。

そこに映る飾った自分。

N.Yでも何度かこう言う格好をしていたとは言え、やはり自分には似合わないと思ってしまうつくし。

高級ホテルと呼ばれる場所へ向う時、時々だがこう言う格好もさせられていた為か、

つくしは特に自分の姿に違和感を持つ事もなかった。

それ位、つくしは千恵子の言った「メープルでフレンチの昼食」と言う言葉を信じきっていたのだ。

 


 

午後1250分。

千恵子とつくしは、メープル・ホテル東京のフレンチレストラン前に到着していた。

店の中から店長と思われる人物が出て来て、2人を個室へと案内する。

つくしは何も考えず、にこやかに店長と話す千恵子について個室へと入って行った。

 



「実はね、ママのお友達も呼んでるのよ。1時に待ち合わせしたから、もうすぐ来るはずなんだけど…」



 

つくしが席についた途端、そんな事実を話し出す千恵子。

その千恵子の言葉につくしはギョッとした。

 



「ちょ、ちょっと待って、ママ!おっ、お友達って…。ママ、そんな事、一言も言わなかったじゃない!」



 


(ママの友達も一緒なんて聞いてないわよ!

しかも、何であたしとママが隣同士に座ってんの?!

セッティングされてる食器も明らかに後2人分はあるし…。これって…これって、まさか?!
)


 



「やっぱり帰るっ!」



 

そうつくしが千恵子に声を掛けようとしたと同時に、先程つくし達を個室に案内した店長らしき男が、

 



「お連れ様が到着されました。」



 

と、ノックされ開いた扉から声を掛けて来た。

 



「いらっしゃったみたいね。つくし?どうしたの、口、開いてるわよ?」



 

つくしの「やっぱり帰るっ!」と言う言葉は声にならないまま、

つくしの「や」と言う形に開いたままの口元で止まっていた。

千恵子に指摘され口を閉じたつくしは次に開いた扉から入って来た人物を見て、固まった。

先程閉じたはずの口が再び開いていた事など、この時のつくしは気付きもしていなかっただろう。

 



「お待たせしてしまって申し訳ありません、牧野夫人。」



 

そう言いながら部屋へと入って来た貴婦人に、千恵子はにっこりと微笑みながら声を掛ける。

 



「いいえ。私達も今来たところだから…。お久し振りね、楓。」



 

千恵子の前の席に優雅に腰掛けながら、楓と呼ばれた貴婦人は千恵子に微笑む。

 



「本当、久し振りね、千恵子。こちらがつくしさんね。初めまして、道明寺 楓です。」



 




 




 

はい、ごめんなさい…

まず、最初に謝らせて頂きますっ!!!

初っ端から、こんな展開のリレーってどうなの?!って感じですよね?

申し訳ありません、これは全て華蓮の妄想です…;;;

つくしママが、原作とは全く違う人になっておりますし、つくしちゃんもつくしちゃんじゃないですよね?

F4に関しては、もう…;;;orz

お願いします、石だけは投げないで下さいね。

って事で、これから先は楪ちゃんに全てお任せして、華蓮は逃げます。

それでは、アディオス!=3

艶やかに染まる
             Act.2  『母、帰国』