Act.4





 

 



「司様、先程言われておりました、CNNで流れていたブレイキングニュースについてですが…」



 

シカゴ支社からORD国際空港へと向かう空港の中で、

さっき俺が調べておけと言ったブレイキングニュースが流れ出した時間を中村が告げる。

 



「事故が起きたのが、N.Y時間の午前1128分。

その
15分後、午前1143分には流れ始めていたようです。

他社に関しても調べてみましたが、然程、時間に差はありませんでした。

事故が起きてから然程時間も経っておりませんでしたので、

この時に流れたブレイキングニュースの内容は、

その飛行機が墜落した事実と、乗客名簿に載っていた名前のみです。」



 

本来、俺が乗るはずだった飛行機が離陸してから3時間後に墜落…。

どの程度の事故だったのかは分かんねぇけど、

普通、3時間程飛んだ場所からの墜落と聞けば、乗客の生存率は低いと考えるだろう。

俺がつくしに電話をする1時間程前に、つくしはホテルを飛び出したと芹沢が言っていた。

なら、N.Yでそのニュースが流れ始めてすぐに、つくしはそのニュースを見た事になる。

つくしが出て行ってから1時間ちょっと…。

それだけの時間しかなくて、アイツがそれ程遠くまで行っているとは考えにくい。

 


ホテルを飛び出してから、アイツが行きそうな場所…

俺の生存が確認出来そうな場所…か。


 

ホテルを飛び出してからのつくしの行動を予測してみても、思いつくのはN.Y本社か空港だけ。

もし、つくしがそこに今向かっているのだとしたら、もうすぐ俺の携帯に芹沢から連絡が入るはずだ。

ザワザワと音を立てる自分の胸にそう言い聞かせながら、

俺は空港に向かって走る車の中から流れる景色を見つめていた。

 

まだ明るい時間とは言え、東洋人の女が1人で出歩いていて危険が及ばないとは言い切れない。

つくしがどこにいるのか、危険が及んではいないのか、無事でいるのか…。

今考えてもどうしようもない事ばかりが俺の頭の中を埋め尽くす。

つくしが行方不明と言う事実だけではなく、

何かがつくしに起きているような気がすると言う根拠のない予感が、俺を更に焦らせる。

 


どうして俺はシカゴに行く事になった時に、無理矢理にでもつくしに連絡しなかった?

N.Yにいる時でも、シカゴに着いた時でも、

アイツにちゃんと連絡していれば、こんな事にはならなかっただろうがっ…


 

仕事を優先してつくしへの連絡を疎かにした結果が、これだ。

俺自身の判断ミスに、どうしようもなく腹が立つ。

自身への怒りと後悔と、つくしが行方不明だと言う不安と恐怖が、

俺の中で複雑に混ざり合い俺を責める。

掌に爪が食い込む程、強く拳を握り締めたところで、

俺の中に溢れ出す感情を押し留める事なんて出来なかった。

そんな俺の隣で中村は、急遽俺がN.Yへ戻る事になった為、

L.Aには迎えないとL.A支社に連絡を取っている。

そんな冷静な中村の声が、俺を徐々に冷静にさせる。

過ぎた事を言ったところで、この状況は変わらない。

俺が今、やらなきゃなんねぇ事はつくしを探し出す事。

探し出して俺は無事だと伝えて、

アイツの不安を取り除いてやる事…それが一番大切な事だ。

何も出来ないこの状況で焦ったところで、

また判断ミスを繰り返し後悔する羽目になってしまうだけだ。

同じ過ちを繰り返している時間なんてない。

 


つくし、俺、お前に言ったよな?

婚約発表前に、もしお前が逃げ出したら、

そこがどこでも見つけ出して捕まえて、その場で婚約発表してやるって…

必ず、探し出して迎えに行ってやるからな。

覚悟してろよ!


 

心の中でつくしにそう宣戦布告し、自分の意識を奮い立たせた。

俺が不安になっている場合ではない。

俺よりも遥かに、つくしの方が不安で心細い思いをしただろう。

俺が生きているのか、死んでいるのかも分からない中で…。

あのニュースを見た時のつくしの心境を考えるだけで、

俺の胸が押し潰されそうに苦しくなった。

 

もし、俺の立場とつくしの立場が逆だったら…。

きっと俺は自分自身を見失ってしまう。

何よりも大切で、何に変えても手に入れたかった愛しい女。

そんなつくしが俺を置いて逝くなんて、想像だってしたくない。

これからの未来を共に生きようと約束した相手。

そんな相手が自分を置いて逝くかも知れないと言う絶望にも似た恐怖。

そんな恐怖を感じながらも、アイツはその事実を否定したくて、

アイツの元へ帰ると約束した俺の言葉を信じたくて、ホテルを出たんだろう。

確かに続いていたはずの未来が、閉ざされたような感覚の中でも、

俺を信じようとしていたつくしに愛しさが募る。

 


愛してる…


 

そうポツリと心の中で呟くと、不思議とざわめいていた心が落ち着いた。

俺の感情を揺らすのもアイツなら、落ち着かせるのもアイツだ。

そんな今では当たり前の事に今更ながらに気付いた俺は、

つくしが俺に与える影響力の大きさに苦笑した。

 


大丈夫だ。

つくしは必ず、俺の元に戻ってくる。

俺がアイツなしでは生きていけないのと同じように、

アイツだって俺なしで生きてなんていけない。

当たり前だろ?

俺程アイツを愛してる男なんて、

この世界のどこを探したっている訳ねぇんだから…

だから、必ずアイツは俺の元へ戻ってくる。


 

俺はそう思い直すと空港に着いた車から降り、

N.Y行きの飛行機に乗り込む為にターミナルへと足早に向かった。

 

 

 


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