4年の遠距離恋愛を終えて、俺が日本へ帰国してから3ヶ月。

今日、帰国してから初めて牧野の方から呼び出された。

嫌な予感がして、“行きたくない”と思いながらも行かない訳にもいかず、

浮かない気持ちのまま仕事を片付け、待ち合わせのカフェへと車を走らせた。

 

 

 

遠距離恋愛中、俺が順調だと思っていた牧野との関係は、俺が帰国してからギクシャクし始めた。

どこで狂ってしまったのかも分からない俺たちの歯車は、再び噛み合さる事なく牧野によって吐かれた幼稚な嘘で終わった。

二人で今まで築いて来た全てが、牧野の言葉によって一瞬の中にカラカラに乾いて行く。

 

 

お前はその嘘を見抜かれていないと思ってんだろ?

俺達はその程度しか通じて合えてなかったっつー事か…

 

俺は…

お前の目で、仕草や身なりで、とうに気付いてたんだぜ?

 

 

離れていた4年間、俺達は会う事もなくメールや電話だけでお互いを繋げていた。

その時から俺達の歯車は少しずつ噛み合わなくなって行っていたのだろうか…。

4年間の間に、17歳の元気いっぱいだった“少女”は、上流階級の令嬢を思わせる様な“大人の女”に変わっていた。

 

 

 

『あんたの未来の為に…あんたの幸せそうな笑顔の為に、あたしは今すぐあんたの前から消えるね。』

 

 

 

そんな遠回しな言い方してねぇで、はっきり「類が好きになった」って言っちまえば良いじゃねぇか。

透き通る程純粋で他人を傷つける事が出来ないお前の、その胸に宿る想いや優しさは俺の為なんかじゃない。

 

 

解っちまったんだよ…

4年振りに俺を迎えに来てくれたお前を初めて空港で見た時に…

少し不安そうに、でも自信に溢れたお前の横に、自然に当たり前の様に類が寄り添っているのを見た時に…

俺の知らない所で二人の絆が強く堅くなっていたっつー事に…

俺でさえ入る事の許されないその二人の関係を見せ付けれらた時から、

こうなる事を心のどこかで感じていた筈なのに…

 

 

一通り話終えた牧野は人も疎らになったカフェの中で、

「最後のキスだから…」と涙まで流して、まるで自分が一番不幸なんて顔してやがる。

だから俺は、明日から俺に気兼ねせずに類に会う為に、ここまでしても尚悲しそうな顔をするお前に微笑んでやったんだ。

 

 

 

『バイバイ…道明寺…』

 

 

 

涙で濡れた瞳で儚げに笑ってカフェを後にする牧野。

その場に取り残された俺の胸に、虚しさとお前への狂おしい程の愛だけが残った。

 

 

俺達の関係を素敵な思い出っつーのにさえ、お前はさせてくれないんだな…

 

 

俺は、牧野の代わりに残されたカップを見つめていた。

4年前には聞いた事がなかった高さのあるヒールで歩く、軽やかな足音が聞こえなくなるまで、ずっと…。

見えない真実
〜前編〜