エレベーターから降り、司について社長室へ向う。
社長室と続き部屋になっている秘書室に入った途端、
今までPCに向って仕事をしていた秘書の方達が一斉に部屋に入って来た司とあたしに頭を下げる。
だいぶと、道明寺としての扱いに慣れてきたとは言え、こう言う挨拶のされ方に、あたしはまだ慣れず、毎回恐縮してしまう。
皆さんに軽く頭を下げながら、司の後に続いていると、秘書課の部長があたしに挨拶をして来た。
「ご無沙汰しております、つくし様。お元気そうで何よりです。」
邸に届く書類を、何度か司に届けに来た事があるあたし。
秘書課の部長である山下さんは、数回しかここに来た事のないあたしに、そう言っていつも挨拶してくれる。
50代位の紳士な部長さんだ。
「こちらこそ、ご無沙汰しております、山下さん。いつも主人がお世話になって…」
あたしがそう言って山下さんに挨拶していると、あたしの前を歩いていた筈の司が、
「俺は山下に世話された事なんてねぇよ。俺が山下の世話してやってるんだっつーの。」
と、あたしと山下さんの間に入って来た。
「ちょ、ちょっと、司!年上の方になんて言い方するのよ、あんたは!失礼でしょ?!ごめんなさい、山下さん。」
あたしよりも背の高い司を見上げながら睨む。
司はそんなあたしの目をみないようにする為か、フッと目を逸らした。
ったく、俺様な性格もいつまで経っても直んないのね!
司の失礼な態度を取られた山下さんに申し訳なくて、慌てて謝罪すると何故か山下さんは笑っていた。
「いえいえ、お気になさらずに。それにしても、社長は本当につくし様を愛してらっしゃるんですね。」
な、何ですと?
山下さんの言葉に、あたしは一瞬にして顔に熱が集まるのを感じた。
そんなあたしの様子に、山下さんは微笑みながら、
「つくし様が来られると聞く前と聞いた後では、全く社長の表情が違われるものですから…。
西田君からつくし様が来られると聞いてから、社長、いつもの倍程のスピードで仕事を片付け始められて…。
仕事を終えられても、なかなかつくし様がこちらへいらっしゃらないので、ご自分で迎えに行くとロビーまで行かれたんですよ。」
と、話してくれた。
あの馬鹿っ!
どんな顔して待ってたのよ!
普段の仕事中のポーカーフェイスはどうしちゃったの?!
こんな事聞かされるあたしの方が恥ずかしいじゃないの!
「す、すみません。何か、見苦しいところをお見せしてしまったようで…。後で、きちんと言っておきますので…」
「そんな!滅相もございません。
私としては、つくし様がこちらにいらっしゃるだけで、
社長室と秘書室の雰囲気が穏やかになるのでしたら、毎日でも来て頂きたいくらいですよ。」
そう言って笑う山下さんに、あたしは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
あたしと山下さんがこんな話をしている最中、司は他の秘書さんに指示を出したりしている。
久々に見る仕事中の司に思わず見惚れていると、あたしの視線に気付いた司が突然振り返り、あたしと目が合うとニヤリと笑われた。
その瞬間、真っ赤に染まるあたしの顔。
あぁ、あたしの性格は全く素直じゃない癖に、どうして顔はこんなに素直なんだろう…
山下さんに断りを入れて、先に社長室へと消えて行った司の後に続いて、あたしも社長室に入って行った。