それを見送ったあたしは、先に自分達の部屋へと戻った修と陵の元へと急ぐ。

次は、子供達を幼稚舎に送り届ける番だ。

 


「修、陵、準備出来た?」


 

最近やっと1人でちゃんと着替えられるようになって来た子供達。

焦るとズボンが逆だったり、カッターシャツが裏表だったりする。

 


「ママぁ〜、これで良い?大丈夫?」

「俺も!おかしなとこない?」


 

そう言って確認してくる修と陵。

 


「うん、今日はばっちり!2人共、偉いね。じゃぁ、行こっか。」


 

幼稚舎のショルダーバッグを肩から2人に掛けてあげて、手を繋いでゆっくりとエントランスまでの距離を歩く。

その間に、今日は何して遊ぶとか、誰々ちゃんは昨日休みだったとか、今日は来るとか、そんな他愛もない話をしている。

今お腹にいる子を妊娠する前までは、3人で邸の廊下を競争したりして、

毎回タマさんに怒られていたんだけど、妊娠してからは勿論していない。

修と陵にも、赤ちゃんが出来たから、ママはかけっこ出来なくなったと言うと、

ちゃんと理解してくれたみたいで、手を繋いであたしに合わせてゆっくり歩いてくれる。

誰に似たんだか、本当に素直な良い子達だ。



 

エントランスまで行くと、使用人の皆さんがタマさんを筆頭にズラリと並んであたし達を待っていた。

 


「おはようございます、皆さん。」


 


「「おはようございます、皆さん。」」


 

あたしの挨拶を真似する2人。

使用人の皆さんは、そんな2人ににっこり微笑んだ後、

 


『おはようございます、若奥様、修様、陵様。』


 

と、挨拶を返してくれる。

「行ってきます。」と3人で挨拶して、車に乗り込み、英徳学園の幼稚舎へ向った。

 




 

幼稚舎に着くと、修と陵のクラスまで一緒に向う。

親が出張でいない子達は、使用人の方や運転手がクラスまで連れてくる。

校門のところで子供を引き渡すと、何が起こるか分からない。

お金持ちの子供が集まる学園だけあって、狙われる確立は物凄く高い。

その確立を少しでも減らす為、保護者やその邸の関係者が子供達を無事にクラスまで送り届ける事がここでの決まりになっている。

日本に戻って約半年。

あたしは、こうして毎朝、修と陵と一緒に幼稚舎の校門を潜っているのだ。

 


「おはようございます、道明寺さん。」


 

修と陵の担任の先生が、声を掛けてくれた。

 


「おはようございます、山本先生。今日も1日、宜しくお願いしますね。」


 

あたしも挨拶して、にっこり微笑むと…

 


「ママ、そんな顔してたら、パパに怒られるよ。」と修。

「先生、ママはダメだぜ。」と陵。


 

あたしが、修と陵の言葉に?を頭の上に飛ばしていると、山本先生は苦笑しながら、

 


「修君、陵君、先生は君達のパパには敵わないから、大丈夫だよ。心配しないで。」


 

と、2人に話していた。

 

何の話?と、修と陵に目で問いかけると、ママは気にしないで!と言われてしまった。

 


何だ?それ…


 

気を取り直して、2人を先生に預けた後、あたしは邸に戻る為に再び車に乗った。

車の中から空を見上げると、今日は生憎の曇り空。

修と陵が帰って来たら、お庭で思い切り遊ばせてあげようと思っていたのに…

1日、雨が降らないと良いなと思いながら、車窓から流れる景色を見つめていた。

 


灰色の四角い空の下は、きっと今日もあらゆる欲望が埋め尽くしているだろう。

でも、その中であたしが光を見失わず前を向いて、あたしらしく歩けるのは、

いつも司や修や陵、そして、今お腹にいる小さなこの子が、

この街の片隅にも、汚れのないものが残っている事を教えてくれるから。

いつか、汚れたものがこの世の中には沢山ある事を知ってしまう子供達も、

今だけでも良いから、綺麗な部分だけを見せてあげたい。

沢山の夢や希望を持てる様に。

そして、自分の願いを叶えられるよう、努力してくれる様に。

Act.3 『出舎』