「おはよう!修、陵、朝よ、起きなさい。」

 

ノックして子供部屋に入り、声を掛けて子供達を起こしたら、忙しい1日の始まり。

元気良く子供達に挨拶するのが、あたしの毎朝の日課。

 

「あら?まだベッドの中でゴロゴロしているのはだぁれ?それがお兄ちゃん達≠フする事かな?」

 

まだ眠いよ…とか、ママ、もう少し寝かせて…とか言っている修と陵に、少し目立って来たお腹を撫でながら一言。

すると、2つのベッドから勢い良く同じ顔が飛び出した。

あたしはそんな修と陵の行動に微笑みながら、自分のお腹に「良いお兄ちゃん達ね。」と呟いた。

 

「おはよう、修。よく眠れた?」

 

子供部屋のベッドは感覚を空けて左と右に並んでいる。

まずは、左側のベッドの主の修に声を掛けて頭を撫でてあげる。

 

「おはよう、ママ。うん、ぐっすり眠れたよ。」

 

そう言ってにっこり笑う。

司の髪を水で濡らした時の様に、真っ直ぐな髪の修。

笑った顔は、あたしにそっくりだと司は言うけど、あたしにはどう見ても小さな司が笑っている様にしか見えない。

 

「そう、良かったわね。じゃぁ、ダイニングに行く準備してね。」

 

修にそう声を掛けた後は、反対側のベッドの主の陵に声を掛け、修と同じ様に頭を撫でる。

 

「おはよう、陵。今日はどんな夢を見たの?」

 

「おはよう、ママ。えっと、今日はね…」

 

目をキラキラさせて、あたしに一生懸命に話す陵。

陵の髪は、漆黒で修より寝癖が付きやすい程度の癖毛。

軽くウェーブが掛かっているように見えなくもない。

一卵性の双子だから、話し方も表情も修と同じ。

って事は、陵の笑った顔もあたしに似てるって事よね?

う〜ん、やっぱり司に似てるとしか思えないんだけど…

 

修と陵が昨日夢で見た話を聞きながら、適当な服に着替えさる。

見る夢まで同じだなんて、双子の絆、恐るべし!

2人が着替えを済ましたら、次は双子のパパの元へ…

 

 

あたし達の寝室のドアを開けた途端に、ベッドに向って走り出す修と陵。

司の早朝会議がない日は、いつも見ている光景を見ながら、あたしはリモコンを使って寝室のカーテンを開ける。

 

「「パパぁ〜、おはよう!」」

 

修と陵の挨拶と共に聞こえて来る、ドスッ ボスッと言う音と、うっ…と言う呻き声。

ドアから助走をつけた2人は、司にダイブ。

まだ体重もそんなに重くない2人だけど、一気に、それも2人同時に勢い良く飛び掛られると、たまったもんじゃないだろう。

あたしは、この光景を見る度に苦笑し心の中で、「ご愁傷様、司…」と言っている。

 

「おはよう、司。もう、そろそろ起きて。」

 

身体を起こしボーっとしたまま、まだ覚醒しきっていない司に声を掛けると、

 

「あぁ…。おはよ、つくし。」

 

と言う司の擦れた声と同時に、チュッと口唇に当たる柔らかな感触。

 

「…もう、目は覚めたでしょ?」

 

「おぉ、しっかりな。」

 

そう言ってにっこり笑う司。

この人は、いつまで経っても変わらない。

年齢を重ねた分、大人の男としての魅力が備わってきたけど、どこか子供っぽい部分もしっかり残してて…

そんなギャップに、あたしは性懲りもなく司に惹かれていく。

これも、いつまで経っても変わらない。

 

「パパだけズルいっ!」

「そうだぜ!俺達だって、まだしてないのに!」

 

あたしと司のキスを見ていた2人が、司を睨みながら文句を言う。

そう言えば、今日はまだ修と陵に「おはようのキス」をしていなかった。

 

「ごめん、ごめん。じゃぁ、今してあげる。」

 

そう言ってから、チュッと修の右頬にキスをし、

 

「おはよう、修。」

 

と言うと、修もあたしの右頬にチュッとキスを落として、

 

「おはよう、ママ。」

 

と満足そうに笑う。陵にも、チュッと右頬にキスをして、

 

「おはよう、陵。」

 

と微笑むと、陵はあたしの左頬にキスをして、

 

「おはよう、ママ。」

 

と、修同様、満足そうに微笑んだ。

 

「ったく、お前等…。つくしは俺のだって、いつも言ってんだろ?お兄ちゃんになるんだから、早くつくし離れしろ。」

 

青筋までは立てていないけど、不機嫌そうな顔をして子供達を見ている司。

そんな事で子供と張り合う父親ってどうなのよ?

 

修と陵は、あたし達が結婚して1年目の年に産まれた。

大学を卒業してすぐに、司と共にN.Yへ渡ったあたしは、初めての出産を海外で向かえた。

修と陵が5歳を向かえた今年、司が日本支社長へ就任したので帰国した。

N.Yでは、当たり前の様に挨拶でキスをする。

人前でキスする事なんて考えられなかったあたしも、N.Yでの生活で慣れたのか、今では当たり前の様に挨拶でキスをしている。

本当、慣れって怖い…。

 

「「えぇ?ヤダ!」」

 

声を揃えて、あたし離れをしたくないと言い出す双子。

 

「そう言うパパがママ離れしたら良いじゃん!」と修。

「そうそう。ママは俺達のママだもん。ママ離れなんて、出来ないよ!」と陵。

 

う〜ん、それはちょっと困るかも…

でも、こんな可愛い事を言ってくれるのも、きっと今だけ。

そう思うと、自然に笑みが浮かぶ。

 

「んだと?つくしは、俺の妻だ!俺がつくしから離れられる訳ねぇだろ?つくしだって、俺から離れられねぇんだよ。」

 

司は子供達に、ふふんっ、どうだと言わんばかりに、胸を張って言う。

 

はぁ〜…馬鹿…

子供達とそんな事で張り合ってどうするのよ…

 

子供っぽいところが残っていると、こう言う時に困ってしまう。

でも、これも日常茶飯事。

対応するあたしも慣れたもの。

まだ言い合いを続けている司と子供達。

修と陵をそれぞれベッドの上から下ろして、不意打ちで司にキスをする。

呆然としている司に、

 

「ダイニングで待ってるから早く来てね。」

 

と小声で一声掛けてから、両手で子供達の手を握り、

 

「さて。司は放って置いて、修と陵はママと一緒にダイニングでご飯食べようね。今日の朝ごはんは何かな?」

 

と、双子を連れて部屋を出る。

さっきまで言い合いしていた事などすっかり忘れた様に、

 

「俺は、オムレツだと思う!」

「えぇ?目玉焼きが良い!」

 

などと、朝食のメニューについて話し出す双子。

そんな様子を後ろで見ていただろう司の笑い声が、扉を閉める瞬間に、

 

「母親には敵わねぇな。」

 

と言う言葉と共に聞こえた。

 

当たり前じゃない。

母親は強いんだから!

Act.1 『おはよう。』