享と出逢うキッカケになったのは、俺のオフィスに届いた週刊誌の記事だった。

第一秘書の西田が、何の前触れもなく仕事中の俺の目の前に一冊の週刊誌を広げる。

 



「何の真似だ、西田。俺は今、忙しいんだが…」



 

そう言いながら視線をその週刊誌に向けた途端、俺は驚きのあまり固まった。

 

その週刊誌に踊っていた大きな文字は、

 


道明寺財閥 日本支社長 道明寺 司氏に隠し子発覚か?!


 

と言うとんでもない言葉だった。

 



「はぁぁぁぁぁぁ〜?!」



 

思わず大きな声で、しかもオフィスで素っ頓狂な声を上げてしまった俺。

こんな俺の姿を、第一秘書の西田は見慣れているからか、全く動じない。

が、社内での俺のイメージはCool Beautyだ。

今出した俺の声は、イメージを崩すのには十分過ぎる。


なんて、社内イメージなんてどうでも良い事を考えてる場合じゃねぇ!

俺に隠し子って何だよ?!

俺は後にも先にも、つくし以外の女は知らねぇぞ?!


ご丁寧に俺の隠し子だと言われている男の子の写真まで載っていて、

その写真はどう見ても、俺の息子達の修と陵にそっくりだ。

 


ちょっと待て…。

落ち着け…落ち着くんだ、俺!

俺の息子は修と陵以外有り得ねぇし、つくしの腹ん中には今、3人目の子供がいる。

その他につくしが妊娠した事実はねぇし…

 

じゃぁ、ここに写ってる子供は誰なんだ?


 

俺が今までやっていた仕事をほったらかして、週刊誌に目が釘付けになっているところに、

今日邸に届いた
N.Yからの書類をオフィスに届けに来る事になっていたつくしが、タイミング良く入って来た。

 



「ちょっと、司…何なの?大きな声出したりして…。エレベーターの所まで聞こえてたわよ?何かあったの?」



 

社長室に入って来るなり、怪訝そうな顔を浮かべて俺に言うつくし。

デカい腹のつくしをそのまま立たせている訳にも行かず、応接用のソファーに座らせながら週刊誌を見せる。

 



「これの所為だ…」



 

そう言ってつくしに問題の記事を渡すと、「週刊誌?」と訝しげな顔をしながら受け取り、読み始めた。

 

暫く静かに週刊誌を読んでいたつくしが、突然、

 



「司、国沢≠チて誰よ?!アンタ、浮気してた上に隠し子までいた訳?!

今、4歳って事は修と陵もいたのに、アンタはこの国沢≠チて女と浮気してたって言うの?!

信じらんないっ!この馬鹿!最低っ!アンタとなんか、離婚してやる!」



 

と、顔を真っ赤に染めて怒り出した。

 



「はぁぁぁぁ?!お前、それ本気で言ってんのか?

俺が浮気したなんて馬鹿な事、本気で思ってんのかよ?!ふざけんなっ!

俺はお前以外の女を抱いた事なんてねぇし、俺の子供は修と陵と、今、お前の腹ん中にいる赤ん坊だけだ!」



 

つくしのあまりの暴言に、俺も冷静さを保っていられなくなる。

 



「だ、抱くってアンタ…こんな所で、なんて事言うのよ!馬鹿!

じゃぁ、この写真に写ってる子は誰なのよ?

こんなに修や陵にそっくりでアンタに似てるなんて、どう考えても隠し子じゃなかったらおかしいじゃないの!

アンタに似てる親なんて、そんな人間いる訳ないでしょ?!

下手な嘘なんて吐かなくて良いから、正直に答えなさいよっ!」



 

つくしは興奮のあまり、座っていたソファーから立ち上がり俺の胸倉を掴む勢いで詰め寄ってくる。

 



「正直に答えるも何も、俺は浮気なんてしてねぇよ!他の女も抱いてねぇ!

大体俺がお前以外の女でイケる訳ねぇだろうがっ!この馬鹿女!」



 

俺の言葉に、つくしが怒りとはまた別の意味で顔を真っ赤に染め、怯む。

何かを言いたいのだろうが、口をパクパクしているだけで言葉になって出て来る事はない。

ハァハァと俺とつくしが肩で息をしていたところに、落ち着いた事務的な西田の声が聞こえて来た。

 



「司様、痴話喧嘩はその位にして頂いて宜しいですか?

私がその週刊誌をお見せしたのは、これにどう対処するのかと言う指示を仰ぎたかったからで、

決して司様がつくし様以外の女性では満足しないと言う事をお聞きしたかった訳ではございません。」



 

冷静にとんでもない事を言う西田の言葉に、俺とつくしの顔が真っ赤に染まり絶句する。

 



「つくし様も落ち着いて下さい。

あまり興奮されますと、お腹の中のお子様に障りますよ。

司様、こちらの国沢≠ニ言う方に、本当に覚えはございませんか?」



 

西田はつくしを再びソファーに座らせ、落ち着かせる。

が、俺は西田の言葉で再び頭に血が上る。

 



「知らねぇって言ってんだろ?!お前まで、俺を疑うつもりかよ?!」



 


俺のスケジュールを全て管理しているお前が、一番分かってんじゃねぇのかよ?!

仕事が終わればすぐに邸に戻ってる俺のどこに浮気なんてする時間があるっつーんだっ!


 



「いいえ。疑っている訳ではありません。唯、この名前に覚えがないかと伺っているんです。

つくし様もご存知のはずですが…」



 

西田がそう言ってつくしの様子を窺うと、つくしは首をブンブンと左右に振り、

 



「あたしは、浮気を容認出来る人間ではありませんから。国沢さんなんて女性は知りませんよ。」



 

と、西田…ではなく、俺を睨む。

 


だから、俺は浮気なんてしてねぇって!


 

そんな俺達の様子に、西田は苦笑して、

 



「お二人とも誤解されている様ですが、国沢様は女性ではございませんよ。」



 

と一言。

それを聞いた途端、俺の頭に浮かんだ1人の男の顔。

 



「ちょ、ちょっと待て。それって…」



 

俺がそう言いかけた時、何故か顔を引き攣らせたつくしが、言葉を被せた。

 



「に、西田さん…。まさか…」



 


おっ、つくしも気付いたか?

だから俺は浮気なんてしてねぇって言ったじゃねぇか!


 

俺は心の中でそう言いながら、喉を潤す為にデスクの上に置いたままだったコーヒーに口を付けた。

 



「ま、まさか…。いくら司でも、男の人に子供を産ませるって言うのは無理なんじゃ…」



 


ブッ…ゴホッゴホッ…ゲホッ…


 

つくしの言葉に思わず飲んでいたコーヒーに咽る俺と、顔を引き攣らせる西田。

 


どうしてお前は、んな突拍子もねぇ発想しか出来ねぇんだよ?!

ってか、いい加減俺が浮気したって言う思い込み捨てろよ!


 

つくしの言葉に顔を引き攣らせたままの西田を見ながら俺は、

 


どんな時でも、この鉄仮面みてぇな無表情は変わんねぇと思ってたが、

つくしの突拍子もねぇ一言でなら、意外と簡単に外れるんだな…


 

と、現実逃避をし始めていた。

 


あぁ、頭痛ぇ…

誰か、この馬鹿女の暴走を止めてくれ…


 

 










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Act.5