リビングに残された俺達2人。

俺のコーヒーを淹れに、つくしが立ち上がる。

新聞を読みながらつくしが戻って来るのを待っていた俺に、

 



「司、ちょっと、これ食べてみて。」



 

と、マドレーヌを差し出して来た。

甘いものが苦手な俺やあいつ等でも食べられるようにと作られた、マドレーヌの味見をして欲しいのだろう。

あいつ等と言うのは、勿論、F3達の事。

今日の享の誕生日を内輪だけで祝う為、F3は勿論の事その妻達も来る予定になっている。

つくしから受け取ったマドレーヌを一口口に入れると、口内に爽やかなレモンの風味が広がる。

然程甘くもなく、油っこくもなく、かと言ってパサパサしている訳でもなく…

絶妙な甘さ加減と、焼き加減のマドレーヌだ。

 



「美味いよ。俺は食えるぜ。あいつ等も大丈夫だろ。」



 

それの感想に「良かった。」と満足そうに笑うつくし。

この顔を俺だけの為に浮かべている訳じゃねぇのが、腹立たしい…。

 



「つくし…。それ、あいつ等に出すな。」



 

ムッとしたような顔になってしまうのは、この際仕方ねぇな。

 



「どうして?皆に出す為に作ったのに…」

 

「あいつ等が俺みたいに美味いっつったら、お前は今みたいな笑顔見せんだろ?

だったら、出すな。そんな顔、あいつ等に見せたくねぇ…」



 

拗ねた子供のようにそう言った俺に、つくしはクスクスと可笑しそうに笑う。

 



「子供達は皆庭に行ったと思ってたけど、ここにまだ大きな子供がいたみたいね。

心配しないでよ。このマドレーヌは司の好みに合わせて作ったんだから、皆にはどこか物足りないんじゃない?

美味しいなんて言ってくれないわよ。」

 

「分かんねぇぞ。総二郎は別として、あきらは世辞を言う奴だし…。

類に至ってはお前が作ったもんなら、何でも美味いっつーからな。

お前もお前で類に言われる度に、顔赤くしやがって…」



 

自分で言っておきながら類の存在を思い出してムカついて来た俺の唇に、つくしが軽くキスをした。

 



「あたしは誰に美味しいって言われるよりも、司に美味いって言われる事が一番嬉しいって知ってた?」



 

そう言って穏やかに微笑むつくしの顔は、どこか色っぽい。

不意打ちのつくしからのキスで少し赤くなった顔を隠すように、俺からつくしにキスを返す。

 



「俺が喜ぶような事をお前に言われる度にお前に惚れてるって事、お前は分かって言ってんのか?」



 

唇を離し、拗ねたようにつくしに問いかける俺。

 


悔しいんだよ…

俺ばっかりが、お前に惚れさせられてるような気がして…

お前はぜってぇ分かってねぇよ、俺のお前への気持ちがどんなに大きく深いもんかって事なんて…


 



「ふふ、さぁね。でも、あたしだって同じだよ。

司があたしを独占したくて拗ねた表情する度に、そんな司に性懲りもなく惚れてるもん。

際限なくて怖い位、司に惚れてる…」



 

そう言い終わった後、重ねた唇は俺からだったか、つくしからだったか…。

出逢ってから15年。

その年月の間に、俺は何度こいつに惚れただろう…。

もう数え切れない位、何度もつくしに惚れた。

結婚してから10年経った今でも、その想いが変わる事はないし、性懲りもなく未だに惚れ直す。

寧ろ、日毎につくしへの想いは大きく膨らんでいる様な気がする。

つくしが言う様に、際限がなくて怖い程に…。

 

3度目のキスから唇を離した時、つくしがポツリと呟いた。

 



「もうすぐ4年も経つんだね…」



 

つくしのその言葉が意味するのは、俺達が享と出逢ってからと言う事だ。

 



「あぁ、早ぇよな…。あれから、もう4年近くも経つなんてな…」



 

俺の肩に頭を預けて来たつくしの髪を撫でながら、俺は3年半前の事を思い出していた。

 

 








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Act.4