「あっ、そうだ!忘れてた!」



 

クッキーをオーブンに入れ焼けるまでの時間をリビングで休憩しながら待っている時、修が突然何かを思い出して声を上げた。

 



「何?突然、大きな声出して…。びっくりしたじゃない。」



 

優雅に紅茶を飲んでいたつくしが、驚いた顔を修に向ける。

 

結婚して10年。

こんなちょっとしたつくしの仕草で、つくしを名実共に手に入れてからの時間の長さを垣間見る。

出逢った頃は、こんな仕草が普通に出来る奴じゃなかった。

それどころか、お金持ちなんて…と、上流階級を毛嫌いしていた節のある女だった。

でも、今じゃすっかり道明寺の若奥様だ。

誰に対してでも正しい事は正しい、間違っている事は間違っていると言える芯の強さや、

本来のつくしの良さはそのまま残しながら、つくしは立派な上流階級の人間へと変わっていった。

道明寺として生きていく時間がどれだけ長くなっても、道明寺と言う名前には染まらない。

つくし程すげぇ女を、俺は今までに見た事がない。

そんな最高の女が、今でも俺の隣にいる事を素直に嬉しいと感じ、幸せだと思う。

そしてそんなつくしを母親に持った子供達は、きっと誰よりも幸せだと、子供達にもそれを分かってほしいと思う俺がいる。

 



「ごめん。あのさ、今度学校でテストがあるんだ。」



 

つくしを驚かせてしまった事に苦笑しながらも素直に謝って、本題を切り出した修。

それだけの会話で修が何を話そうとしているのか気付いたのか、陵が後を継ぐ。

 



「でさ、そのテストの点数が100点だったら、欲しい物があるんだけど…」



 

言葉を濁しながら、つくしの様子を窺う陵。

 


さっき言ってた契約って、この事だったのか…

我が息子達ながら、しっかりした奴等だぜ。


 

苦笑しながら修と陵とつくしの様子を見ている俺。

そこに享まで参戦して来た。

 



「ズルいよ、修兄と陵兄だけ…。俺もやる!」



 

そして、何故か龍までが、

 



「龍、フェラーリ!フェラーリ〜!」



 

と、欲しい物を言い出した。

こうなってしまえば、つくしもダメだと言う事は出来ないって事を上の3人は最近学んだようだ。

 



「…分かったわよ。で、一体何が欲しいの?」



 

諦めたように溜息を1つ吐いたつくしが、3人に何が欲しいのかと聞く。

まぁ、子供の言う事だから、んなに高いもんでもねぇだろうけどよ。

 



「「「フェラーリのラジコン!」」」



 

修と陵と享が声を合わせて、3人共瞳をキラキラさせながら言う。

それにつくしと2人で、そんなに欲しいのか?と驚いていると、代わる代わるそのラジコンについて説明を始める3人。

 



「つい最近、フェラーリの会社が限定モデルを作ったんだ!」と、修。


「カラーも限定色だし、性能も今までのとは全然違うんだぜ?!」と、陵。


「ラジコンの中で一番早いんだ!早くしないと売り切れちゃうよ!」と、享。

 

「フェラーリの限定版なら、あんた達一台ずつ、もう持ってるじゃないの…」



 

つくしが呆れながらそう言うと、

 



「それは、オープン記念のやつだろ?」と、修。


「今度はF1連続優勝記念なの!」と、陵。


「プレミアが付くって言われてる位、凄いやつなんだから!」と、享。



 

と、猛反撃。

これには流石のつくしもまいったのか、

 



「分かった、分かった。その代わり、テストで必ず100点取るのよ。それも、全教科…ね。」



 

と言って、意地悪く笑った。

 



「「「えぇ〜?!」」」



 

つくしの出した条件に、不満そうな声を上げる3人。

いい加減疲れて来たのかつくしが俺に困った顔を向けながら司も何とか言ってよ…≠ニ言う視線を投げて来る。

 


ったく、おめぇが素直に買ってやらねぇからだろ?


 

と思いながらも、つくしに助けを求められるのは嫌じゃない。

それが例え、くだらない事だったとしても…だ。

寧ろ、嬉しい位だ。

にやけそうになる顔を必死で押し隠して、

 



「何だ?お前等…。テストで全教科100点取る事も出来ねぇのか?」



 

と、3人を挑発する。

 



「「「出来るよっ!」」」と、咄嗟に答えた3人。



 

言った後で、はっとした顔をする。

 


ぷっ… こんなとこは、つくしにそっくりだぜ。


 

俺は3人にニヤリと笑いかけて、

 



「じゃぁ、頑張るんだな。約束通り、全教科100点だったら買ってやる。

売り切れねぇようにしててやるから、安心してテスト勉強しろよ。」



 

そう言うと、3人は悔しそうな顔をしながらも諦めたように「分かったよ…」と呟いた。

 

俺とつくしに約束を取り付けた3人は気分を取り直して、「サッカーしに行こうぜ!」と龍を連れて庭へと向った。

庭へ向って行った子供達の後姿を見ながら言った、

 



「限定とかタイムサービスって言葉に弱いところは、あたしに似ちゃったのかな?」



 

そんなつくしの呟きに、俺は思わず笑ってしまった。

 

 









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Act.3