Act.13

 

 

リビングで享と2人、修と陵、そしてつくしが来るのを待っていると、俺の横に大人しく座っていた享が、

 



「パパ、レッスンって何?」



 

と不思議そうな顔をして、俺を見上げていた。

 



「レッスンって言うのは、習い事の事だ。

修と陵、享のお兄ちゃん達は、享より少し小さい時から、色んな習い事をしてるんだ。

享も、いつかやらなきゃいけない事もあるだろうが、やりたいか?」

 

「う〜ん、まだ分かんない…。レッスンって、楽しい?」



 

初めて聞くレッスンと言う言葉に、どんな事をするのか想像が出来ないでいる享。

楽しいか?と聞かれると、俺は困ってしまう。

修や陵と違って、俺は嫌で英才教育そのものから逃げていた奴だしな…。

 



「どうだろうな…。楽しいかどうかは、享のお兄ちゃん達に聞いた方が良いんじゃねぇか?」



 

と、俺が曖昧に誤魔化していると、リビングの外が騒がしくなり扉が開いた。

 



「だから、俺が先だって!」


「違う、俺!」



 

そう言いながら、まず修と陵がリビングに顔を出し、その後に続いてつくしが入って来た。

 



「お待たせ、司、享。ほら、修、陵、喧嘩ばっかりしてないで、早く座りなさい。」



 

リビングの入り口で、未だ喧嘩を続けている修と陵の背中を押して席に促すつくし。

 



「何だ?また、喧嘩してんのか?」



 

どうせ、些細な事なんだろうと苦笑しながら俺がつくしに聞くと、

 



「どっちが先に、享に自己紹介するかでもめてるの。」



 

と、つくしは呆れた溜め息を吐いて、「お茶入れてくるね。」と、キッチンへ消えて行った。

 


んな事で、一々喧嘩なんてしなくて良いんじゃねぇのか?

どっちでも一緒だろ?


 

そう思いながら、俺の座っているソファーの前のソファーに座っても、

まだ睨み合いを続けている修と陵を見つめていた。

 

 

 

そんな2人を呆れながら見ている間に、

つくしが子供達のオレンジジュースと俺のコーヒー、そして自分の紅茶を持って戻って来た。

それぞれの前に飲み物を置いたつくしは、何かを閃いたような顔で享の隣に腰掛ける。

そして唐突に、

 



「享、さっきも一緒にいたんだけど、まだママの名前言ってなかったね。

あたしの名前は、道明寺 つくしって言うのよ。」



 

と、享の小さな手を取って、優しい表情で話しかけた。

そして、俺に視線を向けたつくしは、

 



「そして、享の隣に座ってるのが、道明寺 司。」



 

また視線を享に戻し、そう話す。

享はつくしと俺の顔を交互に見ながら、

 



「つくし?司?僕のパパとママでしょ?」



 

と不思議そうな顔をする。

そんな享の言葉につくしは少し笑って、

 



「そう。享のパパとママだけど、享みたいに、パパとママにも名前があるのよ。

その名前が司とつくしって言うの。分かる?」



 

と答えると、享は「うん。」と頷いた。

つくしが享にそうやって話している姿を、修と陵は驚いたような顔で見ていたと思ったら、

 



「「ママが先に言うなんて、ズルいっ!」」



 

と、今度はつくしに怒り出した。

 



「だって、修と陵がいつまでも喧嘩してるんだもん。

享だってびっくりしてるし、お腹の赤ちゃんだって言ってるわよ、お兄ちゃん達怖いって。」



 

つくしはそう言って、自分の腹を擦り「ねぇ?お兄ちゃん達、怒ってばっかりで怖いよね?」と聞いていた。

それを見た修と陵は、何か言いたげな顔をしながらも、途端に静かになる。

 


た、単純過ぎるだろ、お前等…


 

修と陵がつくしに言いくるめられる様子の一部始終を黙ってみていた俺は、笑いを堪える事に必死だ。

流石、母親。

子供達を黙らせる術を心得ている。

静かになった修と陵を確認して、ニコリと微笑んだつくしは、

 



「享、前に座っている2人が享のお兄ちゃん達よ。修、陵、享にお名前教えてあげて。」



 

享に向かってそう言うと、修と陵に挨拶を促した。

 



「俺は、道明寺 修って言うんだ。」


「俺は、道明寺 陵。宜しくな。」



 

さっきまで順番がどうとかで喧嘩していたんじゃなかったのか?と、

こっちが呆気に取られる程スムーズに、ニッコリと笑って挨拶をした修と陵。

そんな修と陵を見て、享は自分の名前を言うのかと思いきや、2人の顔をマジマジと見ているなと思ったら、

 



「同じお顔…」



 

と呟いた。

享の呟きを聞いた修と陵は、互いに顔を見合わせて、

 



「同じ…かな?」


「同じ…かも。でも、享も俺達と同じ顔だよな?」



 

と相手の顔と享を見比べている。

 



「僕も同じお顔?」



 

誰に聞くでもなく、そう呟いた享に反応したのは修と陵。

 



「うん、俺達と同じ顔。」


「おいでよ、享。見せてあげる。」



 

2人はソファーから下りると、享に向かって手を差し出した。

そんな修と陵に少し戸惑った様子を見せた享だったが、大丈夫だと思ったのか差し出された2人の手を取った。

修と陵は享の手をしっかりと繋いで、ダイニングへと消えて行く。

そんな3人の後姿を見ながら、つくしが、

 



「あの3人、こうして見ると、本当の兄弟にしか見えないよね?」



 

と俺の顔を見ながら呟いた。

 



「その本当の兄弟ってやつに、享はこれからなっていくんだろ?

俺達には、その為にこれからしていかなきゃなんねぇ事がある。そうだろ?」



 

俺を見上げているつくしに視線を合わせてそう言うと、つくしは、

 



「そうだね、頑張らなきゃね。」



 

と、微笑んだ。

 



「頑張る必要なんて、どこにもねぇよ。修や陵に接してるのと同じように享にも接していけば良い。

叱る時は叱って、褒める時は褒める。俺達は、そうして修と陵を育てて来ただろ?享も同じだ。

あいつはもう、俺達の息子なんだから。少なくとも、俺はそう思ってるつもりだぜ。」



 

俺から、また視線を子供達の消えて行った方向へと向けたつくしの頭を、俺はポンポンと軽く叩いた。

するとつくしは、

 



「ふふ、あたしも修と陵のお迎え行った帰りの車の中で、そう思ってたんだ。

ねぇ、あの子達が何してるのか、気にならない?こっそり見に行こうよ。」



 

と、悪戯っ子の様に微笑んで、ソファーから立ち上がり俺の手を引いた。

 


お前は一体幾つだよ…


 

と思いながらも、そんな可愛い事をするつくしの言う事に嫌なんて言える訳がねぇ俺は、

フッと笑って、つくしに手を引かれたまま、ダイニングへと向かった。

 

 

 


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