Act.11






 

 

邸へと戻る車の中、今日の朝から幼稚舎であった事を話してくれる修と陵。

いつもなら、1つ1つの話を丁寧に聞いてあげられるんだけど、今日ばかりはそう言ってもいられない。

 



「でね…」



 

と、次の話を修が始めようとした時、あたしが修と陵の会話に入り込む。

 



「修、陵、ごめんね、お話の邪魔して。ママからお話があるの、聞いてくれる?」



 

滅多に子供達の話の最中に別の話をしたりしないあたしが、突然2人の話を終らせた事に、びっくりしたような顔をする修と陵。

 



「「何?」」



 

キョトンとした顔をして、4つの眼があたしを見つめる。

 



「うん、あのね…」



 

何から話せば良いのか少し困っていると、修と陵の方が、

 



「何?パパ、今日、遅いの?」

 

「パパが遅いのなんて、いつもじゃん。」



 

と、司の話を出してくれた。

 


ちょっと、違うんだけど…

ま、いっか。


 



「ううん、違うの。司は今日、お昼からお休みでお家にいるわ。」



 

と、あたしが2人にニッコリ微笑むと、パッと顔が明るくなる2人。

 



「本当に?!パパ、お休みなの?!」

 

「やったぁ〜!じゃぁ、今日はいっぱいパパと遊べる!」



 

満面の笑みを浮かべて、本当に嬉しそうにはしゃぐ双子。

そんな双子に苦笑しながら、

 



「う〜ん、司、お休みなんだけど、遊べるかどうか分からないのよ。」



 

そう2人に伝えると、今まで明るかった顔が曇り、心配そうな、不機嫌そうな、何とも言えない表情を浮かべる。

 



「どうして?パパ、どこか病気?」と、心配そうに修が聞く。



 

それにあたしは、「病気じゃないよ、大丈夫。」と答えると、今度は陵が、

 



「じゃぁ、何で俺達と遊べないの?お家でお仕事?」



 

と、不機嫌そうに聞いた。

 



「それも違うの。あのね、修と陵にね、弟が出来たのよ。」



 

突然知らされた事実に、修と陵は驚きを隠せない様子。

 


あはは、突然言われても分かんないよね…

まいったな、何て言おう…


 

あたしが、そんな事を考えて苦笑しながら困っていると、

 



「え?ママのお腹にいる赤ちゃん、男の子なの?」

 

「何で分かったの?」



 

と、また見当違いな事を言って来る双子。

 


そっか、普通はそう思うか…

あたし、妊娠中だしね。

でも、まだお腹の子は、女の子がどうか分かんないんだよね…


 



「ごめんね、修、陵。ママの言い方が悪かったわ。

お腹の赤ちゃんはね、まだ女の子か男の子か分かんないの。

お腹の赤ちゃんの事じゃなくてね、もうお家に修と陵の弟がいるの。

今4歳で修と陵よりも1つ下の男の子。その子のパパがね、3週間位前に飛行機の事故で死んじゃったの。

死ぬ≠チて意味、分かるわよね?」



 

あたしが2人にそう聞くと、2人は声を揃えて、

 



「「お星様になるって事」でしょ?」



 

と言った。

 



「うん、そうだよ。その子のパパがね、お星様になっちゃったの。

でね、その子、パパもママもいなくなっちゃって、1人になっちゃったからね、司がその子のパパになってあげたいって。

ママも司と同じ事を思ったから、その男の子のママになる事にしたの。

でもね、修、陵、勘違いしないでね。司は修と陵のパパだし、ママも修と陵のママよ。それは絶対変わらない。

だけど、その子も司とママの子供にしてあげたいの。

だから、その子のお兄ちゃんに修と陵になって欲しいんだけど、ダメかな?」



 

難しい顔をしながらあたしの話を聞いていた修と陵。

あたしが、「ダメ?」ともう一度聞くと、

 



「その子、俺達の弟にならないと、1人になっちゃうの?1人になったら、どうなるの?」と、修が聞き、

 

「その子のママはどうしたの?」と、陵が聞く。

 

「その子のママの事は、ママも司もよく知らないから、分からないんだけどね。

修と陵がもう少し大きくなったら、分かるんじゃないかな?

その子は、修と陵の弟にならなかったら、全然知らない人達の中で生活しなきゃならないの。

パパもいないし、ママだっていない。もし、修と陵がそんな生活しなきゃいけなかったら、どうする?」



 

あたしがそう言って2人に質問すると、

 



「「そんなのヤダ!」」



 

と、間髪入れずに泣きそうな声で返って来た。

 



「待って、待って、泣かないで…ね?大丈夫、ママも司もどこかに行ったりしないから。

ごめんね、びっくりさせちゃった。でもね、その子はそうなっちゃうの。

修と陵は、司とママがいないなんて、嫌でしょ?じゃぁ、その子はどうだろう?」



 

半泣き状態の修と陵に、なるべく優しくそう聞くと、涙を堪えるようにグズッと鼻を啜りながら、

 



「嫌だと思う。だって、淋しいもん…」と、修が答え、

 

「俺もそう思う。パパとママと遊べないなんて、可哀想だよ…」と、陵が答えた。

 

「うん、そうだよね。じゃぁ、修と陵が、その子のお兄ちゃんになってあげて、皆でその子の家族になってあげても良い?」



 

ニッコリと笑ってあたしがそう2人に聞くと、泣いたカラス達はもう笑っていた。

 



「うん、良いよ!俺のおもちゃ、その子にあげる!」と、修。

 

「俺も、俺も!おやつも、半分こしてあげる!」と、陵。

 

「あっ!俺だって、おやつ半分こしてあげるんだから!寝るのも、一緒に寝てあげても良いよ!」

 

「修だけズルいぞ!俺だって一緒に寝る!」



 

途端に始まる口喧嘩。

さっきまでしんみりしていたのは、どこの誰やら…。

もうすっかり享のお兄ちゃん気分になっている修と陵の様子に、あたしは自然と笑みが浮かぶのを感じていた。

 



「はいはい、分かった。その子も修も陵も、皆一緒。

おやつも皆1つずつだし、おもちゃも1つずつ。

寝る時は…今はまだ分かんないけど、もし、暫くその子だけママと司と一緒に寝る事になっても、修と陵は1人で寝れる?」



 

あたしがそう聞くと、修と陵は悩んだ顔をして、

 



「えぇ?その子だけパパとママと一緒なの?」

 

「俺達も一緒が良い…」



 

と、今度は拗ねた。

 


はは、感情豊かで良いけど…

怒ったり、泣いたり、笑ったり、拗ねたり…

コロコロと表情を変えるところは、あたしにそっくりだって司が言ってたけど、ホント、そうかも…


 

そんな事を思い出して、あたしは1人苦笑した。

 



「じゃぁ、お家に帰ったら、司に聞いてみようね。皆一緒でも良い?って。

ダメだったら我慢してね?大丈夫だよね、お兄ちゃんだもん。」



 

あたしがそう言って笑うと、

 



「ちょっとだけだよ?」と、不貞腐れた修。

 

「ずっとはダメだよ?俺達も一緒が良いのに…」と、同じく不貞腐れた陵。

 

「ふふっ、それは司が決める事だからね。ママは何とも言えないわ。

あっ、その子のお名前ね、享って言うの。道明寺 享。今日から、修と陵は享のお兄ちゃんだよ。宜しくね。」



 

そう言って、あたしは両脇にいる子供達の頭を抱き締めた。

2人の頭を撫でながら、享の存在を受け入れてくれた事に感謝する。

そして、

 



「ねぇ、修、陵…」



 

あたしが2人に呼び掛けると、2人はあたしの顔を見上げた。

そんな2人の顔を交互に見つめながら、あたしは言う。

 



「ありがとう、享のお兄ちゃんになっても良いよって言ってくれて。

ママ、嬉しいよ。修と陵が、こんなに優しい子で、ママ、本当に嬉しい。2人共、大好きよ。」



 

と、もう1度、ギュッと抱き締めた。

すると2人は嬉しそうに笑って、

 



「俺も、ママとパパ大好きだよ!」と、修が、

 

「俺も大好き!」と、陵が、



 

あたしのお腹に顔をつけたまま、ギュッとあたしを抱き締めてくれた。

 

もし自分達が享と同じ立場なら…そう考えて、お兄ちゃんになる事を決めてくれた修と陵。

淋しいとか、可哀想とか、今は同情に似た感情があるのかも知れない。

だけどそれでも、修と陵が人の痛みが分かる子供達に育っていて良かったと、心からそう思う。

今はまだ、お兄ちゃんになると言う事が、どう言う事なのか分かっていない修と陵だから、

こうしてすぐにでも良いよ!≠チて言ってくれたんだと思う。

だけど、その内きっと、享に司やあたしを取られたような気がして、

拗ねたり、怒ったりする時が必ず来るんじゃないかと、あたしは思う。

その時、あたしはどうすれば良いのか、司は何をしてくれるのか、今からはそれを考えなきゃいけない。

ある程度人格が出来ていて、そして、精神的なダメージを酷く受けている享。

修と陵が、本当の意味で享を受け入れてくれるまで、

そして享が、本当の意味であたし達を自分の家族だと思えるようになるまで、親であるあたしと司が頑張らなきゃいけない。

特別な事は、何もいらない。

だけど本当は、それが一番難しい。

 

もうすぐ邸に到着と言う頃、あたしは修と陵の頭を撫でながら、これからの子供達の事について考えていた。

 

 

 








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