9月1日。

道明寺邸のつくし専用キッチンでは、朝から甘い香りが漂っている。

今日は道明寺家三男・享(キョウ)の8歳の誕生日だ。

家族の誕生日の日は、必ず自分でケーキを焼くつくし。

今日は本日の主役の享も、一緒になってケーキを作っている。

 



「母さん、飾り付け、これで良いかな?」



 

そう言って、ケーキに並べたフルーツをつくしに見せている享。

別の焼き菓子を作っていたつくしが、享が飾り付けしたケーキを見て嬉しそうに微笑んだ。

 



「うん、上出来!流石、享ね。じゃぁ、冷蔵庫に入れておこうか。」



 

つくしはそう言って、丁寧にケーキをガラス製のケーキドームに入れ、冷蔵庫に入れた。

 



「ケーキ作り終わったけど、享はまだお手伝いする?」



 

家族揃って朝食を取った後、

自室のキッチンでケーキを焼き始めたつくしに、「俺も手伝う。」と言ってケーキ作りを始めた享。

最初はケーキだけを作る予定だったのが、

享の手際の良さに時間がかなり余ってしまったらしく、別の焼き菓子をつくし始めたつくし。

今は、オーブンの中にマドレーヌが入っている。

 



「クッキー焼いても良い?」



 

少し遠慮がちに、そうつくしに聞く享。

つくしは笑顔で「もちろんよ。」と答えた。

 



 



 

そんなつくしと享の様子を朝からつくしに構ってもらえずに時間を持て余していた俺は、

家族専用のリビングのソファーに腰掛け、新聞を読む振りをしながらこっそり窺っていた。

さっきまでリビングの空いているスペースで、四男・龍(リュウ)の相手をしていた修と陵が俺の隣へやって来て、

 



「父さん、また母さん見てんの?」



 

と、修が俺の顔を覗き込みながら、呆れたように聞いてくる。

 


ゲッ…

いつからそこにいたんだよ、お前等…


 



「なっ?!んな訳ねぇだろ?俺はお前等みてぇに暇じゃねぇんだよ。」



 

修に図星を指された俺は、慌てて新聞に視線を移す。

 



「とか言って…。さっきから、新聞のページ変わってねぇじゃん。父さん、嘘吐くの下手過ぎだぜ。」



 

修と同じ顔の陵が反対側から俺の顔を覗き込んで、これまた修と同じように呆れた声で呟いた。

 

そんな双子の後ろから「へたすぎだじぇ!」と、龍の声がする。

ゆっくりゆっくり1人で歩いて来た3月に3歳になったばかりの龍が、

陵の真似をしながら、「パパぁ〜」と俺の膝にしがみ付いて来る。

 


ったく…

龍!んな言葉、真似しなくて良いんだよっ!

修、陵!龍に、んな言葉教えてんじゃねぇ!


 

今年の2月に9歳になった修と陵は最近、生意気になって来た。

平気でこの俺様をからかって来やがる。

ったく、こいつ等は一体誰に似たんだ?

間違いなく、俺じゃねぇ…よな?

だけど何だかんだと言いながら、そうやって子供達の相手をしている自分が嫌いじゃないのは、

そんな俺をつくしがとても優しい表情で見ている事を知っているからだ。

 

新聞をテーブルに置いて、満面の笑みを浮かべて俺の膝にしがみ付いて来た龍を抱き上げる。

 



「パパぁ〜、フェラーリ!フェ〜ラ〜リィ〜!」



 

最近龍は、俺の顔を見る度にフェラーリのミニカーを買え≠ニ強請る。

 


だから、それは俺じゃなくてつくしに言えっつーの…


 

初めて俺にミニカーを買って欲しいと龍が言って来た時、

俺はすぐに使用人に買いに行くよう命じたが、使用人からそれを聞きつけたつくしに、

 



「特別な日でもないのに、無闇に物を与えないで!」



 

と、怒られた。

一度買ってやると言ったにも関わらず、なかなか買わない俺に龍はマインドコントロールするかのように言い続けている。

その度に俺は、

 



「龍…。それは、俺じゃなくてつくしに言え。」



 

と、繰り返す。

いい加減、この台詞にも飽きて来た。

 



「んもぉ〜、パパのケチっ!」



 

そう言って頬を膨らませる龍。

 


俺にケチって言うなっ!

仕方ねぇだろ?つくしがダメだっつーんだからよ…


 



「龍、父さんに言ってもダメだぜ。

母さんがうん≠チて言わなきゃ、父さんぜってぇ買ってくんねぇし…」と、修。

 

「そうそう。まずは母さんと契約しなきゃな。って事で、修…」と、陵。



 


つくしと契約って…

何考えてんだ?お前等は…


 

そう思って、俺が2人の様子を見ていると、陵が修にニヤリと笑いかける。

修もそれだけで意味が分かったように、ニヤリと笑い返し、

 



「おぅ、陵。「行こうぜ!」」



 

と、つくしがいるキッチンへと走って行ってしまった。

 



「あっ、おい!」

 

「パパぁ、龍も行くぅ〜」



 

俺の膝の上から身を乗り出し、修と陵の後を追いかけようとする龍。

龍を抱き上げて何をするつもりなのかと修と陵の後を追いかけ、俺もキッチンへと向かった。

 

 








                Next 






Act.1