「だったら、聞くんじゃねぇよ…。マキアーノに入る為にやらなきゃいけねぇ事なら、やってやる。

で、その3つの掟っつーのは、何なんだよ?それだけなら、守るに守れねぇだろぉが。」



 

俺を挑発するように笑った類に、ムッとしながらも俺は誰ともなしに問いかけた。

そんな俺の言葉に、類は「確かに…」と呟いて笑う。

 


ったく、嫌な奴だな、コイツ…


 

そんなに長い時間、コイツ等と一緒にいた訳じゃない。

って言うか、3日前に見かけただけで話したのなんて、今日しかも今が初めてだ。

なのに俺は、長年一緒にいたような、そんな感覚をコイツ等3人に覚えていた。

 


これが、俺自身を見て貰えてるって事なんだろうか…


 

俺の後ろにあった家の存在。

3年前に初めて知った、本当の母親の存在。

そんなものが、いつも俺自身よりも先に見られていた。

やっと俺自身を見てもらえたと、見知らぬ男に拾われた時はそう思った。

だけど、結局その男も家の存在も本当の母親の存在も、何もかも知っていた。

そして最後は、何も言わずに俺を捨ててどこかへ消えたんだ…

俺自身を受け入れてくれる奴なんて、いないと思っていた。

なのに、ここにいるマキアーノの奴等は、ツクシもルイもソウもアキラも、

数時間しか話していないだけなのに、俺≠見ている。

この初めての感覚に、何だかくすぐったいものを感じるが、悪くない。

そう思う自分が可笑しくて、俺は苦笑した。

 



「何笑ってんだよ?」



 

今までアキラと話していたソウが、苦笑した俺に気付き訝しげに聞く。

 



「何でもねぇよ。それより、その掟ってやつ教えろよ。」

 

「あぁ、そうだったな。なぁ、ツカサ…お前、本当に後悔したりしねぇな?

マキアーノに入る事。表に戻れなくなる事…」



 

アキラが真面目な顔の中に、少しだけ心配を含ませて俺に聞く。

 



「クドいぜ、アキラ。俺は表の世界になんてこれっぽっちも未練なんてねぇし、

俺は俺自身の為にマキアーノに入りたいって言ってんだ。後悔なんてする訳ねぇだろ。」



 

何を今更…と、アキラに答えた俺。

そんな俺をソウとルイは笑い、アキラは苦笑している。

 



「ま、ツカサに表の世界は似合わないだろうね。」



 

と言って笑うルイ。

 



「俺達みたいな性分の人間には裏が似合う…そうだろ?アキラ。

ツカサだって、思いっ切り俺達と同じタイプの人間じゃねぇか。」



 

ソウがそう言って笑いながら、アキラの肩に手を置く。

 



「まぁな。この掟を聞いたら、もうマキアーノ…いや、裏社会から出られない。

だから、俺は最後に聞きたかったんだよ、ツカサの気持ちっつーのをさ。

でも、後悔しねぇって言うんなら、教えてやるよ。俺達ファミリーの掟。」



 

アキラはそう言って真っ直ぐに俺を見て話し出した。

 



「まず沈黙の掟=B沈黙の掟≠チつーのは、ファミリー内部の事は絶対に他言無用ってやつだ。

例え、
FBIなんかに捕まって事情聴取されたとしても、情報を洩らす事は許されない。

話して良いのは、ボスとツクシとアンダーボスである俺達3人にだけ。

ボスは怖い人だからな、
FBIに捕まって少しでも情報を洩らしたなんてバレたら、

それこそそいつが死ぬまで追い掛けられるぜ。」



 

それに続いて、ソウが話し出す。

 



「次が服従の掟=B

これは、俺達3人にとったらボスや姉さん…姉さんって言うのはツクシのお袋さん、

つまりボスの奥さんだ。それから、ツクシ。その3人の命令は絶対って事。

要するに、自分のボス、自分よりも地位の高い人の命令は絶対っつー事だ。

それが仮に敵地に乗り込んで殺されに行くような命令だったとしても…だ。

この世界は常に危険と隣り合わせだ。無茶だと思う命令が下される事だって少なくない。

そんな命令にもマキアーノの為、ボスの為なら従うって言うのが服従の掟だ。」



 

ソウの次はルイが話を継いだ。

 



「マキアーノはボスの崇拝者が多いからね。ある意味、服従の掟は必要ない気もするけど…」



 

ルイはそう言って笑い、ソウとアキラは苦笑している。

 



「3つ目は禁断の掟=B

これは、マキアーノ家に近付く事を禁じた掟なんだけど、正しくはツクシと親密になる事を禁じた掟。

マキアーノ家の1人娘であるツクシは、マキアーノ・ファミリーの後継者だ。

良からぬ事を考えて近付いて来る奴だっている。

それを未然に防ぐ為に、この掟がある。だからアンダーボスって地位にいる俺達が
SPも兼ねてる。

アイツ1人だと何かと危険だからね。

でも、勿論俺達3人にも禁断の掟は有効だから、俺達が親密になる事だって許されない。

ツカサ、お前も例外じゃないから。」



 

鋭く尖ったルイの眼が、俺を射る。

ルイの最後の言葉が、俺は何を意味しているのか分からない。

 



「どう言う意味だ?俺がツクシを狙うとでも言いたいのか?」



 

訝しげに眉を寄せて俺がそう聞くと、ルイはフッと笑って、

 



「そうじゃないけど…。別に気にしないで。」



 

と言う。

 



「お前がツクシに惚れるんじゃねぇかって、ルイは心配してんだよ。」



 

そう言って笑っているのは、ソウ。

 



「んな訳ねぇだろ?俺は女に興味ねぇんだよ。」



 

俺がそう言うと、ルイが驚いた顔をし、アキラは引き攣った顔を浮かべる。

 


な、何だ…?

俺、何か変な事言ったか?


 

すると、俺のそんな疑問にニヤニヤとしたソウが、

 



「ツカサ、お前まさか男…」



 

ソウが全部を言う前に、何が言いたいのか咄嗟に理解した俺は慌てて、

 



「ば、馬鹿かおめぇ等!変な冗談言うんじゃねぇよ!俺はノーマルだ!」



 

と否定した途端、タイミング悪くツクシが寝室に入って来た。

 



「…あたしは、アンタがノーマルな人なのか、アブノーマルな人なのかなんて興味ないんだけど。」



 

赤い顔をしてそう呟くツクシ。

そのツクシの言葉を聞いた途端、ルイ、ソウ、アキラの3人が爆笑し始めた。

 



「ツクシ、お前タイミングよ過ぎ…」



 

そう言って腹を押さえているアキラ。

 



「そっちの意味で、言ったんじゃねぇよ…」



 

とヒーヒー笑っているソウ。

 



「だ、ダメだ…。ツクシ、面白すぎる…」



 

肩を震わせて蹲るルイ。

 

赤い顔をしていたツクシの顔が、3人の言葉で更に赤く染まる。

 


「な、何よ!男同士が集まってする話なんてそれしかないって、この前ソウが言ったんじゃないの!」

 

「お、お前…まさか、ノーマルとアブノーマルって、そっちの意味の?」



 

真っ赤に染まったツクシの台詞で、3人が何故爆笑しているのか理解した俺は、恐々とツクシに確認する。

きっと今の俺の顔は、引き攣ってるに違いない。

 



「だ、だから、この前ソウがそう言ってたから、てっきりそんな話の最中だったのかな?と思ったの!

もう、3人共、笑いすぎ!」



 

話題をそこから逸らしたくてツクシは3人に怒鳴るが、それが余計に3人の笑いのツボに入ったらしく、

笑いは治まるどころか余計に激しくなってしまった。

 



「お、お前も変な誤解してんじゃねぇ!んな話なんてするかよ!」

 

「わ、分かってるわよ!あたしの早とちりだったって事位!ったく、もう良い!」



 

笑いの止まらない3人と、未だ否定を続ける俺に呆れたのか、

それともこの空気に耐えられなくなったのか、ツクシが踵を返して部屋から出て行こうとする。

 



「ごめん、ツクシ…。もう大丈夫だから。」



 

ククッと、まだ少し笑いながらルイが部屋のドアに手を掛けたツクシを呼び止める。

 



「あ〜、笑ったぜ。で、どうしたんだ?」



 

目尻に溜まった涙を拭いながら、ソウが問いかけると、

 



「あっ、そうだった。アンタ達が変な事言い出すから、肝心な事忘れてたじゃないの…」



 

とブツブツ文句を言いながら、ツクシが再び部屋の中へと戻って来た。

 



「変な事を言い出したのは、お前だろうが。まぁ、良い。それより何だよ、肝心な事って。」



 

ブツブツと文句を言っているツクシに、苦笑しながらアキラがそう言うと、

 



「あ、あたしは何も悪くないわよ?って、それはもうどうでも良くて…」



 

と言った後、ツクシは咳払いし、

 



「ツカサ、アンタ怪我が治ったらあたしのSPしてくれる?

マキアーノに入るかどうかは、
SPしながら決めてよ。

あたしも、その間にアンタって言う人間見せてもらう。

血の掟は、アンタが
SPしながらファミリーの事について学んで、それでもこの世界にいる事を決めて、

あたしがルイ達みたいにファミリーにとって必要な存在だって認めてから交わそうと思う。

この世界に存在する掟、それについて話は聞いた?」



 

一変して真面目な顔をして俺にそう言った。

 



「あぁ、聞いたぜ。沈黙の掟∞服従の掟∞禁断の掟≠フ3つだろ?」

 

「そうよ。その3つを合わせて、血の掟って言うの。

その3つの約束を守る事を誓い、ファミリーのメンバーになると約束する時に、互いの血を重ねる。

だから、血の掟。

血が交わる事で一族に加わったとするって誰かが決めたんだって…。

その3つの約束を守れそうかどうかって言うのも、
SPしてる間に考えてみて。

もう答えは出てるのかも知れないけど、今は聞かないわ。

あっそれから、ルイ、ソウ、アキラ。アンタ達3人はツカサの教育係って仕事が増えるからね。

銃の使い方から、1から
10まで教えてあげてね。」



 

ツクシはそう言って3人に向かってニッコリ笑う。

その笑顔に顔を引き攣らせるソウとアキラ。ルイは苦笑して溜息を吐いている。

 



「じゃ、そう言う事だから。後、宜しくね。」



 

ニッコリと笑ったまま、ツクシは鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で部屋を後にした。

 

パタンッと部屋の扉が閉まったと同時に聞こえる深く大きな溜息。

 



「はぁ〜…マジかよ…」


「ぜってぇ、俺達が笑った事への仕返しだぜ…」


「俺、明日から領地の見学入ってるんだけど…」

 



「な、何だ、お前等…。すっげぇ、暗くねぇ?」



 

明らかに落胆している3人、俺がそう言うと、

 



「俺達、明日からすっげぇ忙しいスケジュールだったんだよ!」と声を荒げるソウ。

 

「ホントだぜ!なのに、余計な事押し付けやがってツクシの奴!」と同じく文句を言うアキラ。

 

「どれも疎かになんて出来ないからね…。従わないと、後が怖い…」と乾いた笑いを浮かべるルイ。

 

「これも、さっき言ってた服従の掟≠チてやつなのか?」



 

俺のそんな問いに、3人は、

 



「「そうだ!」」 「そうだよ…」



 

と、答えた。

 


こんな事で、掟って使って良いのか?


 

なんて事は、この際黙っておこう。

まぁ、何はともあれ俺はSPとしてココにいられるようだし、

後は俺が生きる意味っつーのを見つけるだけだ。

 

未だに文句を言い続けている3人を横目に見ながら俺は、

この先にどんな事が待ち受けているかも知らずに、

これからの生活がどうなって行くのかと考えを巡らせていた。







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Act.5