大通りに出ると黒曜は、先程の様に耳を澄まし、速度を落としながらつくしがいるだろう場所へと向かい、少し先で止まる。
そして、俺がその先で見たものは…―――
身体から血を流し、路地裏からゆっくりと後ろに倒れる様に出て来たつくしの姿だった。
「つくし…?」
思わず呟いたつくしの名前。
それと同時に、つくしの身体が地面へと叩きつけられ、ドサッと言う音が俺の耳に届いた。
地面に転がるつくしの身体から、止め処なく溢れ出る真っ赤な鮮血。
背中から、胸元から溢れ出るそれは、つくしの身体を包み込む様につくしの周りに真っ赤な池を作り始める。
呆然としたまま、俺は黒曜の背中から下り、つくしへと近付こうとしたその時、
つくしを追う様に路地裏から数人の男達が、血が滴り落ちる刀を下げて出て来た。
出て来た男達は、つくしが事切れた事を確認する前に俺達の姿を見つけ、慌ててその場を後にした。
俺は、そんな男達には目もくれず、呆然としたままつくしを凝視し、覚束ない足取りでゆっくりとつくしへ近付き、気付くと跪いていた。
そんな司の様子を、司に付かず離れず付いて来ていた総二郎達はいたたまれない思いで見ていた。
つくしの周りに出来た血の池から、つくしの身体をゆっくりと抱き上げ、自分の膝の上に抱き寄せる。
「つくし…?お前、何で、んな所で寝てんだよ?俺、言ったよな?寝てんなよって…」
力なく、青白い顔で俺に抱かれているつくし。
俺が話す事に、いつも返事や相槌を返して来ていたつくしからの返事は返って来ない。
「意味分かんねぇよ…何だよ、これ…。おい、起きろよ…。今日は俺達にとって大事な日だろ?帰ろうぜ、俺達の城によ…」
そうつくしに話しかける俺の視界が、徐々に霞み始める。
俺の目から一筋、零れ落ちた雫がつくしの目尻に落ち、その雫はつくしの滑らかで柔らかい頬を流れる。
俺にはそれが、つくしが泣いている様に見えた。
「ごめん…。お前だって待ってたんだよな、この日を…。約束しただろ?迎えに来るって。
だからよ、ちゃんと儀に出て、お前を迎えに来たんだ。だから…帰ろう…」
つくしに、そう囁いて優しく微笑み掛ける。
司の心中は穏やかになんてなる筈もなく、つくしを抱きゆらりと立ち上がった司の目にはほの暗い怒りと憎しみの炎がちらついていた。
その司の周りには言いようのない、邪悪なオーラが漂っている。
総二郎達に背を向けたまま、司は一言。
「さっき、この場にいた刺客共を探し出せ…」
その声は抑揚もなく静かで、その分司の怒りや憎しみを含んでいる様だった。
その声に、振り返った司の無表情なのに瞳は炎を宿しているその表情に、総二郎達でさえ息を飲む。
つくしと出逢う前に苛々する心を抱え荒れていた司等、
今の何を考えているのか分からず静かに怒りを露にする司に比べると可愛いものの様に思える。
総二郎もあきらも類も、つくしが居なくなった今、司が暴走して何を仕出かすのか、全く予測出来ない。
予測出来ない分、今の司を1人にする事も出来ない。
3人は司が何をしようとしているのか見当が付かなくとも、そんな司を見守り、どんな時も傍に居ようと思うのだった。
「…分かった。探し出した後は、どうすれば良い?」
静かに総二郎が俺に聞く。
「誰に頼まれたのか聞き出きさえすれば、もうそいつ等に用はねぇ。」
それだけ良い残すと、俺は片手でつくしを抱き、黒曜に跨った。
黒曜の首を撫でながら、「つくしを振り落とすなよ」と話しかけ、手綱を握る。
軽く腹を蹴ると、黒曜はゆっくりと走り出した。
黒曜が走る度に、血を吸って赤黒く光るつくしの漆黒の長い髪が揺れる。
そんなつくしを優しく抱く司を、赤く揺らめく大きな月が映し出していた。