司と牧野がN.Yと東京で遠距離恋愛を始めてから1年経った。
俺と牧野の関係は相変わらず友達でも恋人でもない中間地点で、
俺はまるで収穫の日を夢見てるまだ若い青い果実の様。
司は俺の親友で、牧野はその司の大事な女で…。
俺は牧野を愛してるけど、そんな俺の位置から後一歩が踏み出せない所為で、じれったいのなんのって…。
俺は総二郎やあきらみたいに、甘いだけの誘い文句や味っ気の無いトーク、そんなものには興味はない。
俺が興味を持つのは、牧野だ。
牧野のころころ変わるあの表情。
本当は強くないのに、どこまでも強い振りをして他人に心配や迷惑を掛けまいとする、そのひた向きな姿勢。
決して人に見せようとしない涙。
それを我慢しようとする彼女の強さ。
そんな牧野に惹かれたんだ。
俺達が生きている上流社会と言われる所は思い通りにいかない事ばかりだ。
でも、そんな人生でも捨てたもんじゃないかも知れないって思える様になったのは、他でもない牧野のお陰で…。
まだ俺達にもチャンスはあるんだと、身を持って教えてくれたのは親友の司で…。
何度も牧野に言ってしまう。
「あんたのありがとうは聞き飽きた。」と…。
ありがとう、とあんたに言われるとなんだか切ないんだ。
友達でもないし、恋人にもなれないんだよと、突きつけられている様で…。
だってそうだよね?牧野。
あんたが俺に「ありがとう」や「ごめんね」って言う時は、ほとんどが司絡みなんだから…。
「じゃぁ、またね。」そう言って俺に背中を向けた後も解けないこの切ない魔法。
さようならの挨拶の後に消える笑顔。
俺が気づいてないと思ってる?
あんたらしくないよね、そんな顔…。
あんたには、太陽みたいな笑顔が似合うのに…。
そんな牧野を見て、いつも淡くほろ苦い想いだけが俺の胸に残ってるよ。
淋しそうな色があんたの横顔に見えるから、「どうしたの?」って聞いて見るけど、
あんたは、「ううん、なんでもない。」って無理して笑うんだ。
司と牧野の絆を信じたいと願えば願う程なんだか切ない。
2人が上手くいけば良いと思う。
牧野がいつでも笑っていられれば、それだけで良いと心からそう思う。
だけど、心のどこかでは俺がそうしてあげたいと思っているのも事実で…。
「あたしは多分、花沢類の事も愛してるよ。道明寺とは別の意味でね。
何て言うのかな…。家族を愛する様な愛、自分を愛する様な愛。
そんな感じ。言ったでしょ?花沢類はあたしの一部だって…」
いつかあんたはそう言ったよね?
でもさ、あんたの俺への想いは「愛してる」よりも「大好き」の方があんたらしいんじゃない?
あんたがいつも司の隣で浮かべている笑顔には「愛してる」が似合うけど、
俺に向けてくれる笑顔には「愛してる」って深い想いよりも「大好き」って大きな想いの方が似合いそうな気がするよ。
それに、俺も勘違いしそうになるしね…愛してるなんて…。
自分の殻に閉じ篭もって忘れかけていた人の香りを、あんたは俺に突然思い出させてくれたんだ。
これからは、降り積もる雪の白さも薄い紅色のハートを運んで来る優しい風も、
全てを焦がしてしまいそうな陽の光も、寒さを連れて来ると思わせる黄色や赤色を、もっと素直に喜びたいと思うよ。
俺も、意味があってここにいるんだって事、感じて生きてみたい。
ダイアモンドよりもやわらくて暖かな未来、本当は牧野と手にしたいよ。
だけど、それは願ってはいけない未来だから…。
だから、司が帰って来るまでの限りある時間を、もっとこうしてあんたと過ごしていたいんだ。
それ位の俺の我侭、牧野なら聞いてくれるよね?
『The flavor of life』
俺にとってそれは、牧野と過ごす時間の事なのかも知れない。