あたしは今まで護られたくないと思っていた。
自分の事は全て自分で…そう思って来た。
だけど司に言われて初めて気付いた。
あたしは庇われる事と護られる事を同じだと思っていたのだと…。
甘えると弱くなる、そう思っていたあたしは素直に司に甘える事もせず、それがどれ程司を不安にさせていたのか、
そんな事にも司に言われるまで気付かなかった。
そのパーティーの後からのあたしは、出来るだけ素直に…そして、出来るだけ自分1人で…と思わないように努力した。
22年間、当たり前のように思って来た事を変える事は安易な事ではなく、
最初は意識しながらじゃないと甘える事も素直になる事も出来なくて、
頑張ろうと思えば思う程に赤面していて上手くいかなかったあたしも、少しずつ慣れて来て今では当たり前の様になっている。
それ以降も続いた苛めは、その都度司に報告する事にした。
その度に司は「無理しなくて良い。嫌なら欠席しても良いから。」と言ってくれたけど、
それではあたしがあんな女達に負けた様な気がして、司がそうやって優しい言葉を掛けてくれる度に、
「大丈夫、愚痴溢したらスッキリした!1人で戦うよ。絶対負けないんだから!」と言って笑っては、次のパーティーに備えた。
そんなあたしに司は苦笑していたけど、
毎回あたしが暗がりに呼び出される度に眼を光らせていてくれたらしく、
あたしに危害が加えられそうになった時は必ず助けてくれるようになった。
毎回タイミングよく現れるようになった司に気付いた女達は、司が眼を光らせている事に気付いたんだろう、
かく言うあたしも女達が気付き始めた頃に気付いたんだけど…。
それからは徐々に苛めも少なくなり、
あたしにも婚約破棄する気など全くない事をやっと理解したらしい女達からの苛めは、結婚する直前にはピタリとなくなった。
あたしなんかが司の隣に立ってて良いのかな?
毎回パーティーに出席する度に、そう思っていた。
あたしがその場にいるのは場違いの様な気がして仕方なかったその自信の無さが、その場にいるご令嬢にも伝わっていたのかも知れない。
司があたしに言ってくれた
俺はどんな時でも、お前を護ってやる。庇うのと護るのは違う。
って、言葉があたしに安心をくれ、
俺を幸せにしてくれるのは、この世界のどこを探したってお前しかしいない。
俺を幸せにしてくれる為には、まずお前が俺に甘える事と頼る事を覚えなきゃいけねぇんだ。
その言葉は、あたしに自信をくれた。
司がそう言ってくれるなら…と自分を卑下するのは止めて、堂々と司の隣に立つようになったあたし。
ミスをしてしまっても、それは司が上手くフォローしてくれる。
当てにするのではなくミスをした時は素直に頼り、それを快く引き受けてくれる司に甘える事にした。
そんな安心感があたしに余裕を与え、次第にミスもしなくなりミスしても自分でフォロー出来る様になった。
今では司の仕事関係のパーティーでもそれなりに楽しめている。
1年と2ヶ月の婚約期間を終え、6月のある晴れた日。
あたし達は無事に結婚式を挙げる事が出来た。
誓いのキスの前、司が小さな声であたしに言った、
俺はどんな時でも、お前を護ってやる。護られる事は悪い事じゃねぇんだから、お前は安心して一生俺の傍にいろ。
その言葉は、今でも耳に残ってる。
うん。でもやっぱりあたしは護られるだけなんて嫌だから、あたしも司を護ってあげる。
司が辛い時や悲しい時は、必ずあたしが支えてあげるからね。
そう言って微笑んだあたしに司も微笑み返して、
おう、頼りにしてるぜ。
と誓いのキスを落としてくれた。
今あたしのお腹の中には、あのパーティーの日の夜に出来た小さな命が宿っている。
ついさっき帰宅したばかりの司に妊娠した事を告げると、それはもう凄い喜びようであたしの方が驚いてしまった。
「お前以外にも護るもんが出来ちまったな…。コイツはこれから俺達2人で、しっかり護っていこうな。」
要約落ち着いた頃、司はそう言い嬉しそうに笑ってあたしを抱き締めた。
「そうだね。司もパパになるんだから、しっかりしなさいよ。」
そう言って笑うあたし。
そんなあたしの身体をゆっくり離す司。
どうかしたのかな?と思って司の顔を見上げると、そこには不安そうな司の顔があった。
「俺、ちゃんと父親になれると思うか?」
いつも自信満々の司からは考えられない程、自信無さ気な声を出す司。
そんな司に一瞬呆気に取られたあたしは、司が何を思って言っているのかを理解すると同時に微笑んで言った。
「大丈夫だよ、司。あたしが独りじゃないように、アンタだって独りじゃない。あたしがいるよ、ずっと一緒に。
ずっとアンタを支えてあげる。アンタもあたしも、パパとママ1年生なんだよ?
ちゃんとパパとママ出来なくても良いじゃない。
あたしを愛してくれるように、この子も同じだけ愛してくれればそれだけで良い。
一緒に護っていくって決めたんでしょ?」
「あぁ、そうだな。でもお前と同じようにコイツを愛していくのは無理だ。」
そう言いきった司に少なからずショックを受けたあたしは、
「どうして…?」
と不安になって聞いてしまった。
「バーカ。んな不安そうな顔してんじゃねぇよ。誰も愛せないなんて言ってねぇだろ?
俺のお前への愛情は半端じゃねぇんだ。それと同じだけコイツの事愛せる訳ねぇだろ。
コイツは常にお前の次だ。男でも女でも…な。」
そう言ってニヤリと笑ってあたしの唇に自分の唇を重ねた司は、もう既にいつもの俺様な司に戻っていて、
あたしはキスをしながらクスリと笑ってしまった。
誰もが気にも止めずに通り過ぎてくだけの、どこにでも落ちているようなガラクタだったあたし。
そんなあたしを司は見つけて、いつも大切に抱えてくれてた。
あたしを大切にしていた司を、
周りは不思議そうな目だったり不審そうな目だったり、何故?って、納得のいかないような目で、
少し離れた場所から見ていたり直接司に抗議したりしてたよね…。
でも、それでも司はあたしに言ってくれた。
俺にとってお前は、唯一の女だ≠チて…。
こんなあたしを護り続けた司の腕は、どんなに傷ついて痛かった事だろう。
あたしを護る為だけに、司は一体どれ程のものを犠牲にして来たんだろう…?
アンタが見つけてくれて、決して楽じゃなかった人生で、どうにかして1人であたしを磨き上げてくれた。
あたし達はお互い一番望んでいたものを手に入れたけど、その代わりに失ったものもあったのかな…?
今ではもう分からないよね。
もし取り戻せたとしても、きっとそれは今手にしている幸せ程必要なものじゃないはず。
ねぇ、司…
あたし、絶対後悔なんてしないよ?
今まで生きて来た世界を捨てて、アンタのいるこの世界に飛び込んだ事。
何より、一生アンタの傍にいると決めた事は。
色んな辛い思いをしてまであたしを護ってくれた司の為に、決して綺麗な宝物にはなれないけど、でも歪にでも輝いて見せるからね。
アンタが傍にいるなら、どんな時も笑ってる。
だってアンタがいなきゃ、きっとあたしには何もなかったんだから…。
ありがとう、大切な事を教えてくれて。
ありがとう、あたしに幸せを与えてくれて。
ありがとう、掛け替えのない宝物を一緒に護っていこうって言ってくれて…
Dear father-to-be.
これから、パパになる司へ…
世界で一番、愛してるよ。