な、何で…?
ベッドルームの扉を開けて、ソファーで眠る道明寺の姿を確認したあたしが、まず最初に思った事はそれだった。
4年後、必ず迎えに来ます
そう約束してN.Yへと旅立って行った道明寺は約束通り、4年後の去年、日本へと帰国した。
帰国してすぐ、道明寺はあたしにプロポーズした。
でもあたしは、まだ学生だから…と、尤もらしい理由で断った。
でも本当は、恋人同士の時間が少しでも欲しかったから断ったと言うのが本音。
付き合い始めたと思ったら、道明寺がN.Yへ行ってしまって恋人らしい事をした記憶もない。
だから、せめてあたしがまだ学生のウチだけでも、そんな関係を楽しみたかったのだ。
そんな理由で道明寺からのプロポーズを断ったあたしに、青筋を立てて文句を言っていた道明寺。
暫くその事で、会っていても電話していても喧嘩していたのに、突然それがパタリとなくなった。
これでやっと平穏が訪れる…と思ったのも束の間。
あたしが大学の講義を受けた後バイトへ行っている最中に、
あろう事か道明寺はそれまであたしが住んでいたアパートを引き払っていたのだ。
その事に、
「勝手な事をするな!」と散々文句を言ったあたしだったけど、
「本当は有無を言わさず結婚するつもりだったのを同棲で我慢してるんだ!」と相変わらずの俺様振りを発揮され、
「同棲が嫌なら結婚するぞ!」と脅されたあたしとしては、そのまま道明寺と同棲せざるを得なくなってしまった。
同棲を始めてから3ヶ月経った今日、
先週N.Yへの出張が決まり来週までの約3週間、日本にいないといっていたのに…。
何で、N.Yにいるはずの道明寺がここにいるのよ?!
ってか、今更だけどココどこよ?!
はたと今自分が居る場所を確認し忘れていた事に気付いたあたしは、慌てて部屋のカーテンを開けて外を確認する。
遥か下の方に見える景色は、明らかに日本ではない…。
それどころか、アイツがいるはずのN.Yの街並みでもないようだ。
何故なら眼下に見える大きな看板やネオンに書いてある文字が英語ではない。
一体、ココはどこなの?!
自分の身に何が起きたのかさっぱり分からず、
軽いパニックに陥ってるあたしの後ろから、低く擦れた声が聞こえた。
「起きてたのか…」
「あっ、道明寺。おはよ…」
パニックになっていたあたしは、ついいつもの様に挨拶を返してしまった。
「おはよ…。お前、相変わらず朝早ぇな…。まだ、6時前だぜ?もう少し寝てろよ…」
腰が痛ぇ…と呟きながら、道明寺はまだ寝るつもりなのかベッドルームへと移動する。
「ん。その前にシャワー浴びる…」
ベッドルームへと消えて行く道明寺の後姿にそう声を掛ける。
って、そうじゃなくて!
「ちょっと、道明寺!」
慌てて道明寺の後に続いてベッドルームへと飛び込んだあたしは、
既にベッドに横になり夢の世界へと旅立とうとしている道明寺の肩をガクガクと揺らして眠りを妨げる。
「んだよ…。俺は疲れてんだ。寝かせろよ…」
眉間に皴を寄せて、鬱陶しそうな顔をしながらあたしを見る。
「寝かせろよじゃないわよ!一体、ココどこなのよ?!何でN.Yにいるはずのアンタがココにいるの?!
ってか、どうしてあたしは日本にいないの?!」
道明寺の胸倉を掴む勢いでそう言うあたし。
あたしのあまりの剣幕に驚いたのか、眠そうだった道明寺の眼がパチリと開いた。
そしてニコッと笑ったかと思うと、その長い腕をあたしの身体に巻きつけてベッドへと引きずり込んだ。
「な、何すんのよ!それより、あたしの質問に答えなさいっ!」
「うっせぇなぁ…。んな大声出さなくても聞こえてるっつーの…。ココはパリのメープル。
仕事でココまで来なきゃなんなかったから、
ついでに旅行でもしようかと思ってココに来る前に日本に寄って、寝てるお前を連れて来たんだよ。」
それだけ言うと、道明寺は「分かったら、お前も寝ろ。」と言って、
あたしの背中を赤ちゃんをあやす様にポンポンと叩く。
これは道明寺の癖になりつつある。
一緒に暮らし始め、いつの間にか同じベッドで眠るようになったあたし達。
同じ時間にベッドに入った時は必ず道明寺はあたしの背中をこうして叩いてくれる。
それに慣れてしまったのか、あたしも道明寺にそうされると自然と瞼が下がって来て…
そしてあたしは、久し振りの道明寺の腕の中で道明寺の温もりに包まれながら、
再び眠りの世界へと旅立ってしまった。