邸に帰ると直ぐにオンナの居場所を聞く。
部屋の扉を開けるとソファに座った女がこちらを見て一言だけ。
「お帰りなさい。」
無表情で答えて直ぐに俺から眼を逸らした。
ムカツク オンナ オレ ノ ショユウブツ ノ クセニ。
「樹さん………。体大丈夫ですか…。所々痛むでしょう?」
『タダイマ』の変わりに言ってやった。
女の顔が少し歪み、俺を睨み付けてくる。
イイメダナ…
昨晩イヤというほど見たが、ゾクゾクしてくる。
欲望という名の赤くどす黒い炎。
「貴方の所為じゃないですか…。」
「ほう。そんなに良かったですか?貴方の初めての相手とどちらが貴方を満足させましたか?」
女の顔が赤く染まっていく。
初々しい反応だ。
処女同然だった女。
こいつを女にした男の存在が妙に気になる。
しかし……どうしてそう思えるんだ?
ナゼダ?ドウシテ ソノオトコニ シットスル?
嫉妬―――この俺様が?はっ!どうかしているようだ。
落ち着かせるためにタバコを取り出すとオンナが何故か俺ではなくタバコを見てきた。
タバコを気にしている?
「タバコは嫌いですか?」
「………セブン・スターズですか。あんまり吸うと体によくありませんよ。
それに……あっちこち痛いんです!少しは手加減してくださいません?
少なくともあたしの初めての男性はもっと優しかった…と思いますし」
「へぇー……そうなんですか?昨晩あんなに……ね……
俺の下で喘いでいたのに…満足しなかったのですか?
なら――――――。」
俺はオンナを自分の胸に中に抱き寄せ、耳元でこう囁く。
少し甘えを含んだ声で…。
「今日は満足するまでしてあげますよ。趣向を変えましょうか?
明るい部屋でヤルのも面白いですよ。
よーく…樹さんの可愛らしい顔を見てみたいんですよ…。」
女の服に手を掛けた瞬間――――――。
バシッ
コノオンナ…オレサマヲ ヒラテウチシヤガッタ…。
俺が呆然としている隙をついてオンナは俺から離れ、部屋の隅へ行き蹲ってしまった。
ガタガタと震えているようだ。
フン!この俺から逃げられると思うなよ!
脅えろ脅えろ……そのほうが刺激があっていい。
司はゆっくりと立ち上がりリモコンで明かりを消した。
まっくら闇が広がる。司は眼が慣れるまで暫くそのまま待ち、それから歩き出した。
そう…樹の傍まで歩を進め、樹に話しかける。
「樹さん……暗闇の方がお好きなんですね。それなら、そう言ってくださいよ。」
手を伸ばし引き寄せようとすると…。
「やっ!!!!」
そう抗議の声を上げ、いっそう小さくなった樹を司は欲望に満ちた眼で見ていた。
アフレテクルノガワカル。
ナンデダ?コノオンナニダケ
ダイテヤリタイ
メチャメチャニシテ カイラクノイズミ ヘ シズメテヤリタイ。
俺も一緒に堕ちてイキタイ。
何故そう思うのか俺にはこの時まったく判らなかった。
俺は今度は逃げられないほど強く腕を掴んで引き寄せてやった。
俺の腕の中でもがき続ける女の髪の香りに眩暈がしそうだ。
女がもがくたびに香りが俺の理性を狂わせる。
清楚な香りだ…。
そして甘い香りもする。
コノオンナからかおる香り全てが俺を狂わせるんだ。
お前が悪いんだ。
オレヲクルワセル コノオンナガワルイ。
首筋に顔を埋め強く吸うと、咲くショユウブツの証。
「さてと……樹さん。逃げられませんよ。まっ逃がしませんけどね。
いいですか…もう一度教えますよ。
あなたは俺のモノになったんですよ。結婚という名のビジネスでね。
従ってくれれば貴方に何でも与えてあげますよ。金、宝石、洋服、
そして快楽もね。いい子ですから…大人しく体を預けてください。
貴方には僕の妻として課せられた義務があるのですよ。」
オンナは震えながら俺を見上げる。
「義務……」
「教わっているでしょう?後継者を産んでもらわないといけないんですよ…。
だから………あなたは俺に身を任せないといけないんですよ。」
オンナは黙っていた。
ただ俺の中で震えている…そんなに怖いのかよ…。
まぁーお前が怖がろうとどうでもいいが…な。
オンナの服に再び手を掛けたときはもう抵抗はされなかった。
俺はうれしくなって手を服の中へ滑り込ませていく。
皇かな肌を楽しんでいる時オンナがこう叫んだ。
「あたしは愛した人の子だけしかいらない!!!嫌い!嫌い!好きじゃない!
イヤだ!!!!放して!!!助けてよ!!!」
また暴れだす。
ッチ!!!暴れんじゃネェ―!!!
ジッとしていろ!!!俺のショユウブツだろうが!!!
生意気な!!!
「暴れるな!!!優しくしてやらないですよ。
にしても…先ほどの言葉は夫に対する言葉ではありませんね。
取り消したら許してあげますよ。さぁー」
謝罪しろ!謝罪!!!コノオレサマニ!
「……ぃ………ゎ」
「??なんですか?」
オンナは俺を見上げて言い放つ。
「あたし悪くない!取り消さない!!悪くない事は謝らない!!!
みんなあたしにそう言うもの!あんたなんて大嫌い!!!」
ッチ マダハムカイヤガル バカナオンナ。
コノオレサマ ドコガフマンダ?
ナニモカモカンペキ ナニモカモモッテイルコノオレノドコガ!!!!
イラツクオンナダ メチャメチャニシテ
―――――― 服従させてやる!!!
コノオンナヲフクジュサセルノハ コノオレサマノミ。
コノオンナヲ ダクノハオレサマノミ。
「どこまでも刃向かうつもりですか?いけませんね。
樹さん…判らせてあげますよ。心では嫌がっても
体は俺が欲しくってウズウズしているようですし…」
そう言いながら首筋を舌で舐め上げると小さく喘ぐ。
イイカオダ…さてと…。
俺は少々強引にオンナをそのまま押し倒した。
「今日はここで楽しみましょうか…」
俺がそういうとオンナは涙を一杯ためた眼でガタガタ震えている。
「やめて……お願い…」
泣きながら言ってくるその姿。
――――――――ズキッ
頭の奥が痛んだ…
なんだ?一瞬だけ何かが見えた。
俺と……女…英徳?
パズルのようなビジョンが頭に流れ込むたび痛みが走る。
ッッ…なんだよ!!!
うぜぇ!!!消えろ!!!思い出したくネェー!
そう強く思うと痛みはなくなった。
―――一体俺は何を思い出したくないんだ?わかねぇー
そんな思いを振り払うかのように俺は樹を抱いた。
オンナは嫌がってはいたが…事が進むにつれ艶を帯びた声で喘ぎ、俺に反応してくる。
その声が…その顔が…その香りが…。
俺を狂わせて俺はまた昨夜のように抱きつくしてしまった。
行為を終えて涙で張り付いた髪を整えてやり、ベッドに運び寝かせてやる。
オンナの頬を撫でながら俺は思った。
どうしてだ?なぜだ?お前は俺に服従しないんだ?
そして何故…俺はお前を『抱いてメチャメチャにしたい。』そう思うんだ?
ワカンネェー…。
俺はフッーーーと息を吐きそのまま樹を抱きしめた。
コレで二度目か…そう思いながらあったかい女を抱きしめて眠った。
夜中何かのメロディーが鳴り響く。
なんだ?ああ…オンナの携帯か……。
サイドテーブルにある携帯が鳴り響いていた。
こんな時間にだれから?
まさか…………こいつの…。
俺はこいつの携帯を取り、画面を見ると『クロード邸』と表示される。
クロード会長?んなわけねぇーよな。
会長なら携帯から掛けるはずだ。
大体こんな真夜中に掛けてくるはずネェー会長でないとしたら誰だ?
クロード邸の電話を使って一体誰が…。
俺は携帯を静に耳に当てた。
『『――――――― アッ…『お前ら。何している。悪戯はダメダ。』
誰かが何か言おうとしたとき、誰かが止めた。
そして一言俺に
『I am sorry. I made trouble, although there were no someone knowing.』
(すいません。どなたかご存知ありませんが、ご迷惑をお掛けしました。)
流暢な男。
「だれだ?」
少しの沈黙のあと綺麗な日本語が聞こえてきた。
『使用人の者です。』
「使用人がつかえ先の邸で何をしている?俺の女にこんな時間に…」
『使用人の子供の悪戯ですよ。後で叱っておきますのでお許しください』
なんだ?妙に落ち着いてやがるところが気にいらねぇー。
俺様を誰だと思ってんだ?この男。
「お前………俺を誰だと思ってんだ?道明寺司だぞ!!!」
『 ―――――― 樹…様の…そうですか。樹様によろしくお伝えください。では…』
「オイ!!!ッチ ―――――― 切りやがった」
この男は!!!誰だ?
――― 嫌な感じがした。
俺のショユウブツを知っているようだ…使用人であれば当然のことなのだが……
あの 声―――『樹…』
その声は俺以上にオンナを知っているような声。
キニイラナイ。
俺以外が…俺のショユウブツを知る事は重罪だ。
重罪を犯した人間は罪を償うべきだ…
でもまず手始めに…
バキッ
俺は邪魔な連絡機を握りつぶし、そこらに放り投げた。
イラナインダ アンナモノハ
ジャマ イラナイ
タノヤツト ツナガリヲモツナンテユルセナイ…
コイツハ イツキハ オレノオンナ ダ。
フン!コノオンナハ オレノ ショユウブツダ
ダカラ コウドウノスベテヲ カンシシテヤル イッショウナ。
見えない糸で繋いでやるよ。
それに絡まっていけ、抵抗すればするほど糸は絡まるぞ…
絡まりたいというなら…話は別だがな。
カラマレバイイ モガイテ モガイテ オレノイトニカランデコイヨ
ニゲラレナイヨウニ カラマセテヤルヨ …。
ニガサネェー ニガサネェー ゼッタイニナ…。
そう思いながら俺は再び腕の中にオンナを閉じ込めた。