7月1日。
今日はつくしの会社の創立記念日。
こんなに天気がいい休みの朝に、アイツが部屋にいない筈はねえ。
長いフライトが苦にもならねえ。
タラップを駆け降りる音も弾んじしまう。
俺の手には『給料3ヶ月分』
こんなものでつくしの人生が手に入るのかと思えば安いものだ。
6年前の約束・・・・果たしてもらおうじゃねーの!?
〜 爽やかな風に舞う 〜
2年ぶりに訪れるアイツのボロアパート。
下から見上げると、アイツの部屋の窓は全開。
スカッと晴れ渡った青空をバックに、洗濯物が風になびいていた。
よしっ!アイツは部屋にいる。
でも、あれはいったい・・・誰のもんなんだ!?
今日帰国するとは、言ってねえ。
俺が戻ったことをアイツは知らねえ筈だ。
俺はボロい階段を一気に駆け上がった。
俺は4年で迎えに来れなかった。
2年も余計にかかっちまった。
それというのも、アイツがNYには行きたくねえ!と
拒否したからだ。
俺はアイツと日本で居を構えるために我武者羅に頑張ってきた。
会うことは愚か、電話だって時差に苛まれ、ままならない日々。
最後にアイツの声を聞いたのは、確か・・・3ヶ月前。
『類の誕生日に枕を送った』って、楽しそうに話してたじゃねーかよぉ。
違うよな。違うよな。牧野。
お前は俺を待っててくれてるんだよな。
ギュッと拳を握りしめ、ドアをノックした。
「あー、あきらぁ。よかった。入って来て!」
アイツの声に・・・全身が凍りつく。
あきら?
あのパジャマはあきらのものなのか?
「カチャ」
ノブを回すと、軽薄な音を響かせるドアを大きく開いた。
「ごめんねぇ。ちょっと後ろのチャック閉めてくんない?」
目の前には薄いピンクのシフォンのワンピースを着て、髪をアップにしている牧野。
背中のファスナーが半分程開いた白い背中を俺様に向けていた。
こんなことをあきらにさせてんのかよ!?
こんなひらひらした服着てデートすんのかよ!?
俺はファスナーを閉め、牧野を引き寄せた。
「きゃっ、危ないじゃん・・・えっ!?・・・嘘?」
バランスを崩しながらも、俺の腕の中に納まった牧野。
俺の知らない匂いがした。
「牧野。」
「・・・つかさ?」
「何処・・・行くんだ?」
「どうしたの?急に。」
「俺、日本に帰って来た。」
「うん。」
「ずっと日本にいる。」
「うん。」
「俺にはお前が必要なんだ。
あきらのことは犬にでも噛まれたと思って許してやる。
だから、俺と・・・俺と結婚しろ!」
「うん。」
ん!?・・・今、なんつった?
『うん』って『YES』ってことだよな。
俺の腕の力が抜け、俺の前でピンクのスカートがふわりと舞った。
「つかさ、お帰りなさい。」
涙をいっぱいに溜めた瞳で俺を見上げるつくし。
いつの間にこんなにきれいになったんだ?
会えなかった2年の間。
お前を艶やかに成熟させたのは
あきら・・・なのか?
にしても・・・
少し濃い目のメーク。
デコルテの開いたワンピース。
「お前、何処に行くんだよ!?」
つくしが答える前に、つくしの携帯が軽やかな音楽を奏で出す。
「あっ!あきらだ。」
つくしは俺を置いたまま、携帯に突進して行った。
「おっ、おい。」
俺の言葉なんてあいつの耳には届いちゃいねえ。
俺は溜め息をつきながら、靴を脱いで部屋に上がった。
「あっ、あきら。うん。えっ!?・・・そうなの?
うん。お大事ね。・・・そうだね。うん。じゃ・・・あっ、あのさぁ・・・
あきらの代わりに・・・いっしょに行ってもいいのかな?
えっ!?・・・うん。帰って来たの。今。
・・・彼が・・・帰って来たの。」
狭っちい部屋の中をぐるりと見回し
あきらの・・・男の痕跡を探っていた俺。
つくしの嬉しそうなその言葉に
ガバッとつくしを背後から抱きすくめた。
『つくしぃ。良かったね。優紀の次はつくしだね。』
アイツの携帯から聞こえてくる声はあきらではなく、女の声。
「うん。あたしのときは熱出さないでよ。あきら。」
『了解!優紀と旦那によろしくね。
それと、つくしの未来の旦那にも・・・じゃ!』
切れてしまった携帯を、つくしから奪い取る。
「あきらって、男じゃねーじゃんかよ!?」
「男だなんて、あたし言ってないじゃん!
って、あんた、まさか美作さんかと思ってたの?」
「おお・・・まぁな。」
「ばっかだなぁ。
美作さんがあたしなんかを相手にする筈ないじゃん。」
「んじゃー、あのパジャマは誰んだよ?」
「えっ!?あっ、あの、それは・・・ああ、パパ。
パパのパジャマ。」
「お前、なに動揺してんだよ!?
付くならもっと上手く嘘付けよ。
お前の親父さんがあんなにデカいパジャマ着る筈ねーだろう?」
「ああ、じゃあ、進。」
「・・・もういい!
時間なくなっちまう。式は何時からだ?」
「へっ!?ああ、もう行かなきゃ。」
時計を見上げたつくしは、テーブルの上に置いてある土星を手に取った。
「つくし。こっち、着けろよ!」
俺は手に持った小せぇ紙袋をつくしに差し出した。
つくしがでっかい目玉を更にでっかくして俺を見る。
「その、まぁ、『給料3ヶ月分』だ。」
俺がぶら提げている袋をいっこうに取ろうとしないつくし。
「『要らねぇ。』とか『もったいねぇ。』なんて言うなよ!
これには俺様のこだわりが詰まっているんだからな。
って、おい!聞いてんのか!?」
つくしは微動だにせず固まってやがる。
まぁ、無理もねぇよな。俺の給料3ヶ月分って言ったら
つくしの年収の何年分になるんだろうな?
俺は手に持った袋をテーブルに置き、中身を出して
放心状態のつくしにつけてやる。
ダイヤのネックレスとピアス。
それと、左の薬指に指輪。
「いいか!これは、お前がいつも着けれるように
小ぶりに作った俺様のこだわり品だからな。
つくしが『道明寺』になるまで、ぜってー取るなよ!
ずっと着けてろよ!!いいな!」
つくしの目に涙があふれ出す。
「おい。こんなもんぐれーで泣くなよ。
化粧が剥げるぞ。」
ハンカチを取り出しつくしの涙を拭いてやる。
「・・・って。」
「ぁあ!?」
「つくしって。」
「おう。」
「つくしって、言った。
・・・あんた、自分のことは『司』って呼ばせるくせに
あたしを呼ぶのは『牧野』だったのに。」
「当たりめーだろう?
つくしは『道明寺』になるんだからな。
『牧野』って呼べるかよ!」
ふわっと花の香りが舞って、俺様の胸にピンクの花が飛び込んできた。
「ありがとう。ありがとう。司。
あたし、ずっと不安だったの。このまま『牧野』のままなのか?って
ずっと、ずっと名前で呼んで欲しかったの。」
意地っ張りで可愛くねえ俺の女。
稀に見せるその素直な態度が可愛くて仕方ねえ。
「俺はお前を迎えに来るまでは名前で呼ばねえ!って決めてたんだ。
2年前にここに来たときに『つくし』って呼べる筈だった。
だが、お前がごねたから、そう呼ぶまでに時間がかかっちまった。
でも、2年かけてやっとお前も『司』って呼べるようになったからな。
まぁ、いい研修期間だったんじゃねぇ?」
「なによ、それ!?」
つくしが泣き笑う顔を上げて、俺を見上げてくる。
「『道明寺』って呼んでるお前に、今から『司』って呼べ!なんて言っても出来ねえだろ?
ぜってー、結婚しても『道明寺』って言うぜ。
だから、『司』って呼ぶための研修期間だったんだよ。
まぁ、これもひとつの花嫁修業ってやつだな。」
「あんた、日本語弱いのに、こういうことは頭回るのね。」
「おう。それに、時間にもうるせーんだわ。
式始まっちまうだろ?急ぐぞ!」
俺はつくしを抱き上げるとバッグと靴をつくしに持たせた。
「ちょっとぉ!降ろしてよぉ。あたしが歩いた方が早いって!!」
「うるせーよ!こんな高いヒール履いて、階段を踏み外すのがオチだろ?
大人しく抱かれてろ!!」
つくしを抱えたまま、待たせてあった車に乗り込んだ。
「ホントにもう!あーあ。携帯忘れて来たじゃない!!」
つくしは文句を言いながらも、赤い顔して靴を履く。
「あっ!俺、窓閉めてくるの忘れた!!戻るか?」
「いいよ。」
ちいさな声でつくしが答える。
「そうだな。お前の部屋に入る泥棒なんていねーよな。」
「うん。守ってくれてるからね。」
「誰が?」
「司の分身。」
「今日はお前んちに泊まるぞ。
・・・・俺のパジャマ。・・・あるんだろ?」
「うん。毎日干されて陽に焼けちゃってるけどね。」
つくしのダチの結婚式につくしと共に出席する。
教会の入口で書く芳名帳。
俺の名前の横には、名字を抜かした『つくし』の文字。
「おい。お前、まだ『牧野』だぜ。」
「いいの!優紀の結婚式だもん。」
つくしが嬉しそうに左手をかざしている。
ダチの結婚式に感化されているのか。今日のつくしは素直で可愛い。
明日はきっと大雨だぜ。
まぁ、つくしの部屋でのんびりパジャマで過ごすにはいいけどよ。
「司。なにニヤついてるの?」
「秘密だ。」
つくしの耳の輪郭を指先でなぞる。
「ぃやだ。くすぐったいってば!」
色気のねえ声を出して、つくしが耳朶に手をやった。
「あれ!?でもさぁ。何でピアスとネックレスまでお揃いなの?」
「余っちまったからな。もったいねぇだろう?」
「何が?」
「その指輪な。スッゲーこだわり持って作らせたけどよ。
お前、派手なモンもデカいモンも嫌がるからな。
俺の給料3ヶ月分だと、金が余っちまってよぉ。
デザインも気に入ったし、ついでに作らせたオマケだ。オマケ。」
「つかさー!!
あんたねぇ。その考え方の方がもったいないっつーの!!」
俺に飛んでくるつくしの小さな拳。
俺の手の平で受け止め、ギュッと握る。
「行くぞ。」
7月1日。
今日、この日。
俺とつくしは新たな生活の第一歩を踏み出した。
fin.
華蓮ちゃん、サイトオープンおめでとうございます。
うわぁ!緊張するぅ!!
オープン記念のSSなんて初めてで、何を書いたらいいかも分からず
サイトオープンの日にちなんだお話にしてみました。
けど、カレンダーをよーく見ると7月1日って日曜日!
見てたのは6月のカレンダーで、金曜日のつもりで書いちゃったよぉ。
それにSSなんて9ヶ月ぶりだし・・・やっぱり、SS苦手だわ。(爆)
我が家をリンクして貰った上に、素敵なバナーまで作っていただいたのに
そのお礼とHP作りのアシストのお駄賃が、こんな駄文でいいんでしょうか?
すご〜く後ろめたいんですけど・・・
司の指輪へのこだわりは華蓮ちゃんのサイトへのこだわりと思ってます。
華蓮ちゃんのサイトへの熱意は
オープン前よりひしひしと伝わってきておりました。
思いのいっぱい詰まった宝箱。
これからどんなお宝が増えていくのかとても楽しみです。
今後ともよろしくお願い致します。
文月一日 るくりあ