最近のあたしたちはすれ違ってばかり。
TELしても繋がらない。メールも返事はない。
もしかしたら本当に飽きられてしまってるのかも…なんてよからぬ事を考えてしまう。
「はぁ〜…」
優紀の前で大きなため息をつく。
せっかく、ふたりでショッピングに出てもこれじゃ気分が沈むよな…。
でもそんなあたしに気分を害された様子もなく、優紀は話を聞いてくれてる。
「でも本当に忙しいだけなんでしょ。最近、TVや雑誌に出まくってるじゃない。道明寺さん」
「そうなんだけど…」
最近、本当に出まくってる。
経済誌から経済関係のTV番組、ニュース番組に記者会見…。
街であいつを見かけない方が珍しい。
今だって、歩いてると女の子たちが不釣合いな経済誌を持って歩いてる。
まるでアイドルみたい…。
「でも不安だよ」
口をついて出てきてしまった本音。
それを優紀は受け止めてくれる。
昔から優紀はあたしを受け止めて、時には背中を押してくれる親友。大切な親友。
「つくし。大丈夫だって」
どこからそんなセリフが言えるのか分からないけど、優紀はそう言ってくれる。
そんなセリフがあたしにとっては嬉しい。例え、気休めで言ってくれてるとしても。
「そういや今日、西門さんは?」
「今日はお茶会だって」
「会わないの?」
「夜に会うよ」
「そっか」
ふたりはいつだっけか、付き合い始めていて。それを聞いた時にはあまり驚くことはなかったけど、心配はしてた。
西門さんは遊び人だし。
茶道界のアイドル的存在だし。
でも優紀と西門さんが幸せそうな顔をして話してくれたから、いいのかなって思う。
「ふたりは上手くいってるんだね〜」
ちょっと羨ましい。
あたしはうまくいってるのか、ダメになってるのかさえ分からない。
「ダメにはなってないでしょ」
「え!?」
また口に出してたみたい。
このクセ、直さなきゃな…。
「ふふっ。つくしってばほんと相変わらず」
そう笑う優紀。
ウィンドウショッピングをしていたあたしたち。
急に優紀が立ち止った。
「ちょっと、どうしたの?」
「あれ」
優紀が指した先には一際目立つ格好をしたくるくる頭の男。
道明寺。
なんで…?
どうしてここにいるの…?
こんな場所は道明寺には似合わない。
あんたは超が付くくらいの高級ショッピング街が似合う。
こんなアウトレットな場所は…。
「よう」
道明寺は混乱してるあたしを余所に、声をかけてきた。
あたしは答えられないまま、その場に突っ立ていた。
「おい。大丈夫か?」
と、心配そうな顔であたしの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫っ!…てか、なんでここにいんのよっ」
顔を真っ赤にして言うあたしにしらっとして言う。
「松岡に聞いた。今日、お前と会うって」
「え…」
隣にいた優紀を見る。
優紀は軽く笑い、そして言った。
「じゃ、あたしは帰るね」
「えっ。ちょっ、優紀っ!」
「道明寺さん、つくしをお願いしますね」
あたしの言葉なんか聞かずにさっさと帰って行った。
残されたのはあたしとこいつ。
顔が見れないあたしの手を取り、歩いて行く。
「ど、どこに行くのよっ」
「いいから着いて来い」
どんどん歩いて行って、待たせてあった車に乗り込んだ。
車は走り出し、どんどん見慣れた景色に戻ってゆく。そして懐かしい場所へと辿り着いた。
「降りろ」
「え」
「いいから降りろ」
言われるままに降りて、道明寺と一緒に歩いて行く。
「懐かしいな」
こいつから“懐かしい”なんて言葉が出るとは思わなかった。
道明寺が連れてきた場所。
そこは英徳学園。あたしたちの母校。
「ここで俺たち、出会ったんだよな」
そうだ。ここで出逢って、たくさん傷付けて傷付いて。それでも一緒にいたいと思った学生時代。
「忘れてたんだ」
「なに」
「出逢った頃の想いってやつ」
「え」
「お前に惚れた時の想い」
顔が赤くなるのが分かる。こいつがこんなにマジメに話してるのを感じたのはいつぶりだろうか。
そもそもいつぶりに逢ったんだ、あたしたち。
「…戻ろうぜ」
「え?」
「出逢った頃の想いにさ」
そう言って、あたしの手を握る。その手は微かに熱を帯びていた。
そうだね。
忘れていたのかもしれない。
出逢った頃の想いを…。
「うん。…戻ろう。出逢った頃の想いに…」
あたしはそう言って、道明寺の手を握り返した……。
〜Fin〜